2007年10月28日
形の美とは何か
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形の美しさを理論的に解明する大胆な内容。
著者は、機能美と装飾美、具象と中小、定形と非定形、自然と人工、理念と現実など、原始時代から現代までの東西の美の歴史にあらわれた美の構成要素を見直し、ひとつの大きな構成原理の体系にまとめあげた。
そして西洋の黄金比やシンメトリーの美、日本の等量分割やルート矩形の美などを分析して、人間の美的感性の本質を、美の中に数理性を見出す人間の能力だと指摘する。「私たちには、ものごとを秩序づけて見ようとする傾向が根強くあるため、自然の中にある規則性を知覚すると、いつも本能的に驚いてしまうのである」(E.H.ゴンブリッジ「装飾芸術論」)。数理性を基本とする定形は再現しやすいので、美術の伝統に繰り返し使われるようになったという。
自然の美は非定形であると 長い間考えられてきたが、現代のフラクタルやカオス、複雑系の研究から、自然の美もまた数理的に理解できるということがわかってきた。今ではその応用で本物とみわけのつかない自然な枝葉の樹木をCGで再現できるようになった。
自然の美の特徴をこの本では次のようにまとめている。
・自然の法則(造形の秩序)に準拠した機能の形である
・形状が滑らかで無駄がなく有機的形体(オーガニック形体)である
・フラクタル性の形では、自己相似性による黄金比のもつ美しさを内包している
・セルオートマトンによるリズミカルなパターンが見られる(貝類や動物の模様や柄)
そして自然の非定形の美を取り入れてきた日本の伝統美、ジャポニズムの先見性を、こうたたえている。
「先に述べたように非定形は、出鱈目な形、不規則な形だけで、さしずめ美の原理の存在しない形、複雑で偶然生じた形にすぎないと思われていた。しかし、実はこの非定形にある秩序があることが発見された。これがフラクタルであり、このフラクタルと黄金比とはきわめて近い関係にあることも科学的に解明された。こう考えると日本人は、何もやみくもに不規則な形や歪んだ柱や、単なるひび割れを好んで、芸術作品や美の対象としたのではなかったのである。日本人は自然の中に潜む黄金比にも通じる、きわめて高次元の美の原理を本能的に知っていたのである。」
形の美を、秘められた数理性に一元化して説明するアプローチがたいへんわかりやすい。天邪鬼な私は、できのいい理論を前にすると、美しさって本当にそれだけかなと疑問に思ったりもするのだが、それ以外の美の説明を考えるのは、きわめて難しい。
あるとすれば「ただ美しい」というのが、別にあるのだと思う。言語化や理論化できる美とできない美というのがあって、言語化や理論化できる部分については数理性での理解が説明として有効ということなのではないかなあ。
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Posted by daiya at 2007年10月28日 23:59