2007年09月10日
神聖喜劇
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超弩級の絶対的な傑作。大西巨人の小説「神聖喜劇」の完全漫画化。こんな物凄い作品があるとこれまで知らなかったのが不覚であった。全6巻を夏休みに読破。読者を選ぶ作品だが、以下の概要で興味のある人にはおすすめである。
「一九四二年一月、対馬要塞の重砲兵聯隊に補充兵役入隊兵百余名が到着した。陸軍二等兵・東堂太郎もその中の一人。「世界は真剣に生きるに値しない」と思い定める虚無主義者である。厳寒の屯営内で、内務班長・大前田軍曹らによる過酷な“新兵教育”が始まる。そして、超人的な記憶力を駆使した東堂二等兵の壮大な闘いも開始された」(原作の紹介より)
東堂太郎は一度読んだら忘れない驚異的な記憶力の持ち主であった。軍隊の規則書を丸暗記している彼は、不条理な軍隊生活や上官たちの言動に疑問を持つ。そしてその矛盾を言葉で訴え始めることから生じる個人と組織の闘争が物語の主軸である。
序盤のテーマは「責任阻却の論理」。新兵たちは、上官から、軍隊では「知らない」とは言うな、「忘れた」と言えと教育される。東堂は軍隊の規則のどこにも書かれていない命令が、何に由来するものなのかを徹底的に考え抜く。見事な結論に至る。この部分を読んで感動した人は、この本の読者に向いている。第6巻まで読もう。さらに感動すること請け合いである。
漫画だが極めて文字が多いので、読むのはかなりの時間がかかる。むしろ小説だと思って読むと軽く読めると思う。全編を通して描きたかったことは、戦争批判、差別批判という見かけを超えて、組織のばかばかしさであると思う。軍隊、会社、組合、官僚機構など、組織というものがいかに人間を疎外しているか、そのすべての要素が丁寧に語られている抵抗の文学である。
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Posted by daiya at 2007年09月10日 23:59
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