2007年08月28日
美徳の経営
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知識経営論の生みの親の野中郁次郎教授とナレッジマネジメントの大家 紺野登教授の共著。このペアの著書では他に「知識経営のすすめ」などがある。
・知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001734.html
「分析的アプローチでは、戦略は限定された事実や過去の事実に基づかざるをえないし、また客観的である反面、どうしても同質的になるために、不確実で複雑な環境では、他社との差別化が生まれにくくなる。もちろん競争上の脅威を分析し、それにしたがって内部資源の確保を行うことは重要なことではあるが、それだけでは戦略は決定されない。一方で、サプライズのあるような独自性が顧客からは求められている。そういう多元的な、創造性が求められる戦略の時代にわれわれはいる。」
著者は知識経営のエキスパート。現場経験を持たず分析的な形式知に偏重しているMBA流の経営はもはや時代遅れであり、これからは人を動かす力としての美徳を重視した経営の時代だと宣言する。
「もはや論理分析的な判断や意思決定ツールだけでは成り立っていかないのである。これからの社会や経済、企業の未来を読み解く必要がある。そのためには将来的な返還に対する感受性(センスメーキング能力)や、未来に対する知的方法論あるいは価値をデザインする「綜合力」を持たねばならない。知識社会・経済に基礎をおく知識経営へと時代はすでに変化しつつある。知識経営とは人間を基点に置いた経営である。知識を起点にした経営では、成員の「志」を具現化するような新たな知の仕組みや組織が要請されるのである。」
美徳とは「共通善(Common Good)を志向する卓越性(Excellence)の追求」と定義されている。日本的経営の礎を築いた本田宗一郎や松下幸之助の目指したのも美徳の経営であったし、貧者のための金融に徹して成功しているグラミン銀行も美徳の追求である。その追求のために知や力を賢く使う「賢慮型リーダー」が最終的には勝つという、経営の王道を説いている。
「賢慮型リーダー」の要素としては、次の6つが挙げられている。
(1)善悪の判断基準を持つ能力
(2)他者とコンテクストを共有して共通感覚を醸成する能力
(3)コンテクスト(特殊)の特質を察知する能力
(4)コンテクスト(特殊)を言語・観念(普遍)で再構成する能力
(5)概念を共通善(判断基準)に向かってあらゆる手段を巧みに使って実演する能力
(6)賢慮を育成する能力
哲学なき経営は破綻する時代になったことは、企業の不祥事事件を見れば明らかだ。好調な企業をみても、たとえばグーグルなら技術者の理想を掲げた組織風土、アップルならデザインの重視、など、売り上げや利益以外の価値に最適化する成功企業が多い。経営学は経営哲学であるべきで、経営者は哲学を持つべき時代になった。いや、そうなるべきなのだ、もともと。そう確信した、書いた人にも、書かれていることにも志のある本だった。
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Posted by daiya at 2007年08月28日 23:59