2007年07月30日
視界良好―先天性全盲の私が生活している世界
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先天性全盲である著者が、聴覚、触覚、嗅覚をフル稼働させて、どのように世界を認識しているかを書いた本。この表現が適切かどうかわからないのだが、”目から鱗が落ちる”記述の連続である。そして面白い。
生まれてから世界を一度も見たことがない著者にとって、見えないということは何かが欠落しているということではない。視覚ナシで全方位の世界認識を確立しているわけであり、その視界は常に良好なのである。
著者の日常生活の記述は、視覚アリの人にとっては、非日常であり、驚きと気づきの連続である。たとえば「目が見える人が絵を描くとき、目で捉えられないものは描かないという話は私にとって大きな衝撃でした」という一文から、世界認識の大きな違いが見えてくる。
この本は、日々の生活や幼少時代を振り返った短いエッセイで構成されている。それぞれのエッセイには、読者を引き込むトピックが仕込まれているので、ぐいぐい引き込まれる。
「私は嗅覚で空模様がわかります」
「私は毎晩夢を見ます」
「最近料理をよく作るようになりました」
「卓球にも盲人用があります」
「怒り顔ができない」
「アザラシがイメージできない」
「自動販売機のスリル」
「え、それってどういうこと?」、「そういえば見えない人はそれどうやるのだろう?」という疑問に対して、明快な答えを書いている。視覚アリの人向けにデザインされた社会に、視覚ナシの著者が生きるのは苦労が多そうだが、その他の研ぎ澄まされた感覚を使って、上手にこなしていく。ときには自動販売機のランダム押しのようなことを楽しんでさえいる。
この本が素晴らしいなと思うのは著者が、実に楽しそうに持ちネタをしゃべっていることである。目が見えるから見えないことがあり、目が見えないから見えることがある。だから、ピアノを上手に弾くとか、英語がペラペラであるとか、円周率何万桁暗唱できるってどういう体験なのかを、それを得意な人がしゃべるのと同じように、著者は、視覚なしで世界を認識できるとはどういうことなのかを、能力の一つとして、しゃべっているのである。障がい者が健常者に向けて書いた本ではなく、達人が凡人に向けて書いた本なのだ。
だから、広く一般の読者が楽しめる面白い本になっている。
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Posted by daiya at 2007年07月30日 23:59