2007年07月07日

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・奴婢訓
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ガリバー旅行記で知られる18世紀の作家スウィフトが書いた風刺文学の古典。2006年にリクエスト復刊。岩波文庫。

召使、料理人、従僕、小間使い、女中など「使用人」のための処世訓。

「ご主人の呼んだ当人がその場に居ない時は誰も返事などせぬこと。お代りを勤めたりしていてはきりがない。呼ばれた当人が呼ばれた時に来ればそれで十分と御主人自身認めている。あやまちをしたら、仏頂面で横柄にかまえ、自分の方こそ被害者だという態度を見せてやる。怒ってる主人の方から、直きに、折れて来る。」

「買い出しの時は肉を出来るだけ安く値切って買う。勘定書を奥へ出す時には、主人の名誉を傷つけぬよう、最高値段を書いておく。」

「大きなお邸の奥方附だったら、その奥様の半分も美しくなくても、おそらく旦那様から可愛がってもらえる。この場合、気をつけて絞れるだけは絞り取ること。どんな一寸したいたずらでも、手を握るだけでも、先ずその手にギニイ金貨一枚入れてくれてからでなくては、許してはいけない。それから徐々に、向うが新しく手を出す毎に、こちらが許す譲歩の程度に比例して、せびり取る金額を倍増にして行く。そして、たとえ金は受取っても、必ず手向いをして、声を立てますとか、奥様にいいつけますとか、脅かしてやる。」

これは、いかに主人の見えないところで手を抜き、見えるところではごまをすり、悪事がばれたらどう切り抜けるか、といったバッドノウハウの集大成である。

これを読んでいて、大学時代に最初の授業で面白い処世訓を教えてくれた先生を思い出した。「君たちの年頃はいろいろあるだろう。たとえば私の授業の前日に、運命の彼女と出会ってしまい、翌日のラブラブデートの約束を取り付けることに成功したとする。その彼女は私の授業より君たちの人生にとって重要だと思ったなら、ためらわないで授業を休みなさい。しかし、私に「デートで休む」などと絶対に言ってはいけないよ。遠い親戚が亡くなったことにでもするように。そうしないとお互いの立場というものがなくなってしまうのだから。社会に出てからも同じようにするように。」と先生は教えていた。

奴婢訓のような、暗黙の言い訳や適当な手抜きのノウハウは、生きていく上で実はかなり重要な技術なのであって、これを部下がまったく知らないと、本人もつらいし、上司も困るのだと思う。そういう意味では、奴婢訓は逆説パロディであると同時に、本当に役立つマニュアルなのでもあるだろう。

スウィフトは当初は、真面目に召使の正しい心得を書くつもりでこの作品を書き始めたそうである。しかし、書いているうちに召使の側から、皮肉っぽく書く方が面白くなると気がついて、こういう作品になったらしい。結局は未完で終わるのだが、2世紀が経過してもなお、ここに書かれている風刺性は基本的に有効なままである。


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Posted by daiya at 2007年07月07日 23:59 このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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