2007年04月21日
字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ
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いま、劇場で洋画の吹き替え版の人気があるそうだ。しかし、私は吹き替え版を一度も劇場で観た経験がない。同じ料金を払って俳優の肉声が聞けなければ、作品本来の出来を味わえないから損ではないかと思ってしまう。DVDで吹き替えが選べても同じである。例外は子どもと一緒に観るディズニーアニメくらいだろうか。
英語力は自信がないが、たまにセリフと字幕が違っていて、なぜそのような字幕にしたのか意図を考えてしまうことがある。冒頭でも紹介されている名画「カサブランカ」の「君の瞳に乾杯」。これは私も見た時に英語ではなんて言っているのかなと確認して見た。”Cheers to your eyes”とは言っていない。実際のセリフは”Here's looking at you,kid!”である。翻訳者がこの映画の名セリフをかなり創作していたのだ。
一秒のせりふなら翻訳文は四文字以内、二秒なら八文字以内、三秒なら十二字以内。つまり一秒に四文字が字幕の原則だそうだ。一本の映画には約1000本のせりふがあり、字幕翻訳者は一文字レベルの要訳、圧縮作業に苦闘している。
字数のみならず語順も意識するそうだ。「ドラマティックなシーン以上に語順で神経を使うのがジョークだ。たいてい最後の一語にオチがくる。字幕もそれに合わせないと、どうにもマヌケなことになる。」。日本語と英語では述語の位置が違うから、これを補正するのは大変なクリエイティブ能力がいる。
他にも言語の違いは大きい。英語には一人称がひとつしかないが、日本語の一人称は発話するキャラクターによって変化する。私なのか僕なのか俺なのか、そして語尾も状況に応じて変えなければならない。それには作品の背景知識が相当に必要とされるわけだが、公開前の管理が厳しい大作の場合は、映像は見ないで台本ベースでつけねばならないこともあるという。
作品ごとに想定される観客の教養レベルを推し量ることも大切らしい。たとえばシェイクスピアのような有名作家や、リンカーンやナポレオンやキング牧師のような歴史上の有名人の名言がせりふに使われている場合、そのまま使うと知識のない観客には理解できない。だから「ロシアの文学者はこういった」のように説明的に字幕をつくるケースも多いという。
こうした親切な要訳は賛否両論になる。インターネット上には字幕翻訳者を批判するサイトがある。原作のマニアたちが原文との違いを指摘している。全体の流れや観客層を総合的に判断して字幕をつけているのだから、マニアのつくる正しいが長い字幕ではうまくいかないのに、とプロとしてボヤいている。
字幕翻訳者は苦労が多い割に実入りのいい仕事ではないらしい。納期も厳しい。なんと一作一週間ほどというから驚いた。全世界一斉公開に間に合わせるため、まだ最終版ではない台本で字幕を作っては、台本が修正されて字幕もやり直すという泥沼作業もあるそうだ。そんなに急いだ割に配給の関係で公開は2年後になりましたということもある。
最後に著者は映画業界は「難易度別字幕上映システム」を導入したらどうかと秘策を提言している。お子様向けの「あっさり字幕」からインテリや専門家向け「こってり字幕」まで何段階かを用意するという仕組みだ。劇場の制約があるから映画館での導入は難しいのではないかと思うが、DVDで、こんな仕組みが用意されていたら、繰り返し見たい作品を何度も新鮮に味わえてよいかもしれない。
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Posted by daiya at 2007年04月21日 23:59