2007年01月29日
ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実
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「はたらけど はたらけど 猶わが生活楽にならざり ぢつと手を見る」 石川啄木
フリーター、ニートが社会問題になって久しいが、職を得たら幸せなゴールとも言えない現実がアメリカにはあった。働いても働いても貧しい生活から脱出できないワーキングプアという階層が近年、大きな問題として浮上している。
著名な女性コラムニストである著者は、米国の低賃金労働を体験するために、身分を隠し僅かな生活資金だけを持って、長期潜入取材を敢行した。「頂点から20%の階層」から「底辺から20%の階層」へ。時給6〜7ドルの劣悪な長時間労働の環境で、食費や医療費も切り詰めながら、土日も働く日々を体験した。
低賃金労働とはいえ職を得るのに一苦労する。性格的問題がないことを証明するために馬鹿馬鹿しい数十の質問リストに答え、従順な従業員になることを経営者にアピールしなければならない。麻薬をやっていないことを示すために、担当者の目前での尿検査まである会社もある。
単調な労働に創意工夫は期待されない。一人がちょっと頑張ると「みんながそうしろって言われちゃうでしょ」と同僚から叱られる。できる従業員は酷使されるだけ。仕事ができたからといっても1年後に時給が1ドル上がるくらいの将来しか用意されていないのだから、専門の技能を伸ばすことなど考えられはしないのだ。
最低水準の生活を維持することに精一杯な状況では、よりよい職場へ転職することもできない。貯金が無いので職探しのために仕事を休めないからだ。人間関係も職場に閉じているので天職のための情報や人脈もない。
ウェイトレス、掃除夫、スーパーの店員として会社の奴隷のように、身を粉にして働いた著者だったが、どの職業でも生活の向上など実現できなかった。安売りで有名なウォルマート(大手スーパー)の労働者の給料では、ウォルマートのシャツが買えないのである。
米国でおとな一人とこども二人の家族の生活に必要な実質的な年収は3万ドルで、それは時給にすると14ドルだそうである(これには健康保険や電話料金などを含むが娯楽の費用は入らない)。しかし、米国の労働者の60%は時給14ドル以下で働いている。ブルーカラーの労働に対して企業は前述のように6,7ドルで雇用しているわけだから。
多くの先進国では企業が負担できない費用を政府が健康保険や各種の補助金、税金の控除でカバーしているから、国民の生活は成り立っている。自助努力が原則の米国ではそれが期待できない。自力で3万ドル全部を稼ぐしか生きる道は無いのだ。「通勤用の車まで持っている健康な独身者が、額に汗して働いているにもかかわらず、自分一人の生活を維持するのさえままならないというのは、どこかが間違っている」。
著者は、自らの取材体験やそれらの職場での同僚たちの実態をレポートし、貧困から這い上がれない低賃金労働者の不幸の原因も指摘した。彼らは技能がないから、やる気がないから、低賃金労働をしているわけではないのだ。そこから抜けられない社会構造があるのである。そして貧困の再生産構造は強化され、持つものと持たざるものの格差は年々大きくなっている。
低賃金労働の多くは、いわゆる3K労働であるが、これらは中流や上流の階層が快適を味わうためのサービスである。誰かが掃除をして、誰かがお茶を運び、誰かがマーケットの棚を整理しているから、快適な消費が促進されるのである。
「私たちが持つべき正しい感情は恥だ。今では私たち自身が、ほかの人の低賃金労働に「依存している」ことを恥じる心を持つべきなのだ。誰かが生活できないほどの低賃金で働いているとしたら、たとえば、あなたがもっと安くもっと便利に食べることができるためにその人が飢えているとしたら、その人はあなたのために大きな犠牲を払っていることになる」と著者は訴える。
日本でも格差社会の問題が取り上げられているが、こうした本で、アメリカの暗い現状を知っておくことは、課題の解決に役立つかもしれない。能力主義や資本の論理は経済を最適化するものであるが、バランスを考えない施策では、人間に最適化ができないということなのかなと思った。
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Posted by daiya at 2007年01月29日 23:59