2007年01月25日
タイアップの歌謡史
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ビーイング系アーティストについての長年の謎が解けた。そういうことだったのか。
90年代のヒットチャートをにぎわしたZARD、大黒摩季、WANDS、DEEN、T-BOLANなどの楽曲は、カラオケでよく歌われているが、アーティストの顔が見えなかった。なぜなのだろうとずっと不思議に思っていた。だから2005年にZARDがライブツアーのDVDを出したときには、気になって発売日に買ってしまった。
・ZARDの初のライブツアーDVD What a beautiful moment
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003506.html
これを見て本当に上手に歌える歌手だということがわかったわけだが、当時のレビューにも書いたように、素顔がわかったような、わからぬようなミステリアスさが残る。ZARDはユニット名のはずだがその他のメンバーについてもわからない。
この本で知ったのは、それがビーイングが成功した原因でもある「事務所の方針」だったのである。アーティストがテレビが嫌いだとかコンサートはしないなどのポリシーを持っているわけではなかったのだ。
「ビーイングはCM音楽の仕事を丸受けするのだが、そこではスポンサー側の都合を重視し、かつてイメージソングの時代は障壁になりがちだった”アーティストのエゴ”を一切排除した制作体制を敷いたのである。」
「CM音楽用のユニットという性格の強いビーイングのアーティストは、それほどバンド、もしくはアーティストであるというアイデンティティは強くない。例えばWANDSなどはたとえボーカルであろうとメンバーの顔ぶれは流動的で、明確な実体を持たないバンドだった。グループは休眠状態の時期も多く、うやむやになって「解体」している」
ビーイング系は確かにテレビ、CM、映画などのタイアップ楽曲ばかりである。このアーティストの多くは、タイアップ全盛の90年代に、コマーシャリズムによって作り出されたアーティストだったのだ。当時のオリコン年間チャートの上位20位を見ると、何らかのタイアップ楽曲が9割以上を占めているそうだ。そこでビーイング系が圧倒している。
この本には戦後の時期からタイアップがどのように行われてきたか、歴史が丁寧に語られている。日本の歌謡曲は商業主義と切り離して考えることができない。アーティストはタイアップに利用されてきたが、それを通じてスターになった。タイアップを切り口に商業音楽史を斬るという方法論はとてもわかりやすい。
アーティストのタイアップに対する意見がいくつか紹介されていた。浜田省吾のようにタイアップを否定する人もいれば、山下達郎のように「毎年アルバムを出しているわけでも、年間100本ツアーを20年続けてるわけでもない。TVに出たこともほとんどない。そういう人間が音を世の中に伝えるのはとても難しい。それを助けてくれたのがタイアップですね」と評価する人もいる。
海外では基本的に大物アーティストはCMに出ない。日本ではCMで大物がつくられてきたとも言えそうだ。
各年代のヒット曲とその舞台裏が次々に出てきて楽しい。著者と私が年代が近いのも読みやすい理由かもしれないが、自然に歌謡曲の歴史と業界の仕組みがよくわかる面白い一冊。
・懐かしのCMソング大全
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004676.html
・コカ・コーラCMソング集 1962-89: 音楽: CMソング,フォー・コインズ,スリー・バブルス,ジミー時田,加山雄三とザ・ランチャーズ,ザ・ワイルド・ワンズ
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Posted by daiya at 2007年01月25日 23:59