2007年01月08日

情報時代の見えないヒーロー[ノーバート・ウィーナー伝]このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・情報時代の見えないヒーロー[ノーバート・ウィーナー伝]
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「サイバースペース」「サイバー社会」「サイボーグ」の語源であるサイバネティックスの創始者ノーバート・ウィーナーのよみごたえのある伝記。知能早熟に生まれ14歳でハーバード大学に入学した天才少年は、MITの教授になり、情報理論の大家となる。だが、若い頃から奇行が目立ち孤立しがちであった。それに加えて戦争に研究成果が利用されることに強く反対し政治的な発言を繰り返したため政府の危険人物リストに載っていた時期もあった。後年は高名だが孤独であった。革命的な業績を残したにも関わらず、正当な評価を受けていない「見えない」ヒーローの一人である。

ウィーナーは10歳の頃に「無知の理論」という哲学論文を書いている。人間の知識は相対的で、すべて近似にのみ基づいているもので、不完全であるという内容だった。この相対主義的な考え方は、後年のウィーナーの研究にも影を落としているなと思った。サイバネティックスの中心的な概念である、負のフィードバックによる制御モデルも、系が不完全であるということが重要な前提となっている。ウィーナーは生まれ変わりを信じていたそうだが、これも循環因果論的な考え方を突き詰めるとそういう人生観になるのだろう。信念の人であった。

情報論の基礎を築いた論文としては、ウィーナーの弟子のシャノンの通信理論が有名である。シャノンは通信チャンネルを流れるビットの量が情報量だと定義したが、もともとシャノンはウィーナーの情報論にかなり影響されていたらしい。ウィーナーはシャノンより大きなビジョンを持っていたと認めている。

「シャノンは自分の研究に制限をかけて、理論の自分が進めた部分を、ある特定の純然たる技術的なところに限ったことを、あらためて認めた。ウィーナーによるサイバネティックスの使命と展望の特徴となる、大きな哲学的希求と、社会的関連ぬきの部分だった。「理論はビットをこちらからあちらへ移すことだけに関係する」とシャノンは繰り返した。「それが理論のコミュニケーションの部分で、通信工学者がしようとしていたことだ。意味を付与する対象となる情報はその次で、それは一歩先のことで、それは技術者の関心の対象ではない。そういう話は面白いんだけどね。」」

そのまさに面白い部分がいまWeb2.0の世界では注目されているのだと思う。

「ウィーナーの見方では、情報は、意味があろうとなかろうと、伝えるべきビットの列、つまり信号の連なりにとどまるものではなく、系における組織化の程度の尺度だった。」
ネットという系でもデータ量の増大によってエントロピーは増大している。その一方でタグや関連リンクの付与、ブックマーク数のランキングなど、人間がデータに意味を与えて組織化していく動きがある。データに間違いがあれば訂正や批判や無関心によって、修正が行われている。こうしたWeb2.0的コミュニティのあり方は、サイバネティックスの発想にとても近いものではないかと思う。

ウィーナーはサイバネティックス理論において、アナログで連続的な相互作用に注目していた。目的論を指向した時期もあった。これはデジタルの離散的で相互作用中心の情報論に対して、いま一度、古くて新しい革新をもたらすのではないか、と私は考える。Web時代の再評価として時機をとらえた和訳の出版に拍手。


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Posted by daiya at 2007年01月08日 23:59 このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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