2006年10月26日
独白するユニバーサル横メルカトル
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この本にタグをつけるとしたら「これはひどい」と「これはすごい」。
日本推理作家協会賞を受賞した表題作含めて、最初から最後まで、人肉を喰らったり、切り刻んだり、拷問したり、洗脳したり、虐殺したりされたりの短編が8本。死体や血しぶきが飛ばない作品は収録されていないので、グロテスク、スプラッター大嫌いの人は手にとってはいけない。人間のあらゆる狂気の濃縮ジュースみたいな内容である。
どの作品も独特の世界観の中に読者を閉じ込めて、強迫観念的な悪夢を味あわせる。実話に味付けした「怖い話」シリーズの作家として活躍する著者のストーリーテリングの技法が見事に活きている。読者は、巧みな物語設計によって、怖いもの見たさや、結末の見えない落ち着かなさを植えつけられる。救いようのない話ばかりだけれども、先が読みたくなってしまうのである。
そして読後の後味は意外にも悪くない。残虐行為の記述は語りの道具であって、メインテーマではないからだ。妙な話をバリエーション豊かに、次々に聞く面白さがこの本の魅力といっていい。「独白するユニバーサル横メルカトル」の語り手は、タクシー運転手の使っている地図である。地図が喋っているだけでも相当妙な話だが、その運転手が連続猟奇殺人犯であったりする。グロテスクな描写もどこか異世界の話として受けとれる。
閉塞感を巧妙に操る作家だなと思った。虐待される子供、数に執着する男、狂気の集団に潜入してしまった親子など、逃げ場のない設定が、読者に瞼を閉じることを許さないのだ。そうした語り方は著者の原点である怪談の技法と同じといえそうだ。
奇怪な話ばかり読みたいと思ったら、この本は最近のおすすめ作である。
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Posted by daiya at 2006年10月26日 23:59
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