2006年09月24日

このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


スポンサード リンク

・桃
4048736027.09._SCMZZZZZZZ_.jpg

長編「ツ・イ・ラ・ク」の対をなす短編集。

・ツ・イ・ラ・ク
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004722.html

前作の登場人物たちが、各々の視点で語る6つのサイドストーリー。「あの事件」と平行している時代の話もあれば、後日談もある。前作では脇役だった人物がここでは主人公になる。

人それぞれの6つの人生模様の中で、共通しているのは、何かに執着する心といえそうだ。幼い頃に芽生えた執着は年齢を重ねても本質はかわらない。それがやがて個性になり、それぞれの運命を呼び寄せている、ように思える。


学校---幼稚園でも大学でも---という空間が区切る時間があまりにも克明で密度が高いため、この空間からはなれて久しい人間は、おうおうにしてミステイクをおかすけれども、十四歳の女は、二十四歳の女とも三十四歳の女とも同じなのである。そのからだは。その情欲も。

「ちがう」

もしだれかがそう言うのなら、それは、わたしとその人の個性がちがうのであって、その人のうちでは、その人の原型は十四歳よりももっと以前、十歳くらいに成り立っていて、その原型が、衆人の前に現れ出るかたちが、わたしとはちがっただけのことを錯覚してしまうからだ。

その人のうちにおいてはその人の十四歳と二十四歳と三十四歳は同じはず。ちがうところは、わたしがそうであるようにふたつだけである。各々なりの知識の量とその知識量からくる語彙。体力とその体力差からくる執着の度合い。執着を詩人はときに、情熱やひたむきと換言するけれども。


どの話も「ツ・イ・ラ・ク」を読んでいなくても、単独作品として楽しめるように書かれているが、もちろん、前作を読んでからのほうが深く味わえる。

表題作「桃」は映画にもなっている。女性のエロスをテーマにした短編オムニバスの「female」。この第一話として長谷川京子が主演で映像化された。小説のファンなら一見の価値あり。ただし、このDVDでのおすすめは、断然、小説とは無関係な「玉虫」の石田えりの好演なのであるが。

・female
B000BHHYII.01._PE26_OU09_SCMZZZZZZZ_.jpg

5人の女性作家の原作を5人の監督が5人の女優で仕上げた5つのエロス。「桃」「太陽の見える場所まで」「夜の舌先」「女神のかかと」「玉虫」を収録。

「桃」―長谷川京子/池内博之/野村恵里
「太陽の見える場所まで」―大塚ちひろ/石井苗子/片桐はいり
「夜の舌先」―高岡早紀/近藤公園
「女神のかかと」―大塚寧々
「玉虫」―石田えり/小林薫/加瀬亮


スポンサード リンク

Posted by daiya at 2006年09月24日 23:59 このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
Daiya Hashimoto. Get yours at bighugelabs.com/flickr
Comments