2006年08月24日
物理学の未来
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ノーベル物理学賞受賞者ロバート・B・ラフリンが語る物理学の未来。
16章のエッセイを通じて、科学における還元主義の終焉と、創発主義の時代の到来を予言している。
「私は時代という考え方が好きではないが、しかし現在、科学が還元主義の時代から創発の時代へと変わりつつあり、物事の究極の原因探しが部分の振る舞いから集団的な振る舞いへと移行しつつあるという、好ましい状態になるかもしれないとは考えている。」
創発の代表例として物質の相転移が挙げられている。相転移がいつ起きるかを、その物質を構成する原子ひとつを見て、演繹的に言い当てることは不可能だ。相転移は集団的な現象であって、原子ひとつでは起きないからだ。多は異なり。たくさんの原子が集まって、何らかの条件で系が組織化されているとき、相転移は起きる。マクロなレベルでは条件は安定しているから、水が沸騰する条件は容易に言い当てあることができる。
「「ミクロな法則は真であり、おそらく相の原因となりうる。したがって、演繹的に証明はできないものの、ミクロな法則が相の原因であると確信できる」。この主張は信頼でき、私は正しいと考えているが、「原因」という言葉に普通とは違う意味をもたせるという、奇妙なニュアンスを帯びている」
伝統的な科学は物質の究極的な基本構成要素を探してきた。顕微鏡の精度があがるたびに、分子や原子、電子や陽子や中性子、クォーク、そして超ひもなどの、より小さな単位を発見した。しかし、量子レベルの振る舞いは、マクロのレベルとはまったく異なる法則に支配されていることも知った。
それでもなお多くの科学者は、法則をたくさん発見して束ねていけば、万物の振る舞いを説明することができると信じている。この決定論的還元主義に固執する態度に対して、著者は強烈に異を唱えている。
なぜそうなるのかを第一原理から演繹することができないのが、創発現象である。創発主義では、単純な存在が集まることで新たな自然法則を生み出していると考える。そこでは法則が組織化を作り出すのではなく、組織化が法則を作り出している。
著者はノーベル賞受賞者のパーティで「今でもアインシュタインは正しいのか」という質問に対してこう答えている。
「アインシュタインの考えは確かに正しく、その証拠は日々目にできるが、この質問が本当に意味しているのは、相対論が正しいかどうかというよりも、数々の基本的な事柄は重要なのかどうか、そしてそれらはまだ発見されていないのかどうか、ということだろう。」
そして、究極の微細な構造を操作するナノテクノロジーや、測定精度があがれば科学が終焉すると言う考え方に対して、徹底的に批判を浴びせている。そこを探せば無数の未知の現象やミクロの法則が見つかるだろうが、それらを再構成しても私たちが知りたい世界の説明は見つからないだろうと予言している。
この本は全編が皮肉とユーモアにあふれている。優秀な若者がシリコンバレーのベンチャーに身を投じることや、科学的な創造性を捨てて実利の技術や、政治的に注目されている課題に注力する若手を冷笑する。現代物理学の権威の大放言大会であるが、科学の未来への情熱がギンギンに感じられて、圧倒される。
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Posted by daiya at 2006年08月24日 23:59