2006年06月14日
音楽の基礎
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音楽の基礎
古典的名著だがたいへん知的好奇心を満たされた。
音楽の基本は音である。音は高さ(ヘルツ)、長さ(秒)、強さ(デジベル)、音色の4つの要素で規定される。そして音はリズム、旋律、和声の法の上で音楽を構成する。この法があるから美しい旋律や響きが得られるわけだが、実は規定と現実のズレが音楽を奥深いものにしていることがわかる。
たとえば高さ。音高とは数学にもとづいて少しの狂いもなく設計されていると思っていたが、実際の音楽ではそうではないらしい。たとえば平均率音階はオクターブを12等分したものだが、この理論値と実際のアナログな楽器は微妙に異なっている。現実の弦で得られる音響学的な平均率では、Cを基音としたC#とD♭では、C#のほうが若干高くなるそうだが、平均率では同じ音に集約している。完全な平均率ではややきたないにごりがでるそうだ。「天上の音楽」より「地上の音楽」のほうが美しいといえるのかもしれない。
長さやリズム。この基本となるメトロノームは、実際の音楽では50-130に設定される。この数字は人間の、弛緩状態と緊張状態の脈拍の範囲と同じであるそうだ。肉体のリズムが、音楽を支配している。記譜法における速度記号も、杓子定規ではなく、本来は気分や表情で解釈するのが正しい。ある曲におけるアンダンテが、別の曲のモデレートよりも速い場合は容易にありうると教えている。
音色については一層、曖昧である。
「
一例をあげれば、われわれがいろいろな楽器の音色を識別しているのは、じつはその楽器の鳴りはじめの部分と、音高がかわるときの変わり目の特徴に負うことが多い、ということである。いくつかの楽器のある一定の高さでの長い音を録音し、その音の鳴りはじめの部分と鳴りおわりの部分とを切り落とし、それらをつなげて聞いてみると、切り落とす前は一聴して簡単に楽器の種類が識別できたのに対して、驚くほど識別が困難になってしまう。
」
専門音楽家でさえ、鳴りはじめ(アタック)部分を消して、鳴っている持続音だけを聞かせると、それが何の楽器か、正確には当てられなかったそうである。同じ音高でも、女性の声は低く、男性の声は高く、弱い音は高く、強い音は高く聞こえるという耳の特性もある。
気分や表情を表現するための斬新な記譜法を採用した楽譜も紹介されている。真っ黒に塗りつぶされていたり、何十ものデタラメな線が交差する不思議な楽譜に驚かされるが、人間の多様な感性を表し、演奏者に伝える方法としてはこれもありだ、と。
厳密な規則に支配されて良そうな、和音や和声構造も、ヨーロッパ古典音楽が作り上げた幻想的な部分があって、それに縛られない東洋の音楽の美しさにも、もっと眼を向けるべきだと、最終章で新しい可能性について言及している。
著者は、この本で音楽の基礎理論を丁寧に教えながら、一方で現実の音楽は人間の自由な感性こそが、芸術としての音楽に完成させるものだというメッセージを送っている。古典理論の背後にある意外な事実。楽譜が読める、楽器が何かひとつできる人に、とてもおすすめの一冊。
・バッハ インヴェンションとシンフォニア
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004158.html
・音楽する脳
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004148.html
最近のお気に入り音楽はアコースティックなカントリーの歌姫Alison Krauss。フォーキーでブルーグラスなバンドにキレイ声。たまりません。
・Now That I've Found You: A Collection
#追記 はてなブックマーク方面で「zokkon 平均「律」だよ。」とのご意見。私もそう思いますが、原文ママなのです。
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Posted by daiya at 2006年06月14日 23:59 | TrackBack