2006年05月28日

忘れられた日本人このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・忘れられた日本人
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西日本を中心に農村の古老たちから聞き取った生活誌。初版は1960年だが岩波文庫52刷を数える民俗学の古典。かぐや姫や桃太郎に出てくる”爺さま”と”婆さま”が、物語の筋を離れて、訥々と自分の人生とムラについて語ったような内容である。”爺さま”と”婆さま”にも、彼らが主人公として生きた長くて深い物語があったのである。

でてくる人生は多様である。貧しい生活の中で必死に働き続けた人が多いが、自堕落に乞食生活を送った老人もいる。村の社会の向上に身を捧げ人望を集めた人生もあるし、ひたすらに異性を追いかけた色男もいる。意外にも自由奔放に生きていた女性の姿が目立つ。
まず古い農村社会は因習に縛られた封建的ムラ社会というイメージが間違いであることにきづかされる。各地方にこうした肥沃な土壌としての多様なムラ社会があったことが、近代日本の強さを産んだのでもあったのだろう。

網野善彦氏が書いたこの本の解説から。


歴史学が、歴史を対象化して科学的に分析・探求する歴史科学と、その上に立って歴史の流れを生き生きと叙述する歴史叙述によって、その使命を果たしうるのと同様、民俗学も民俗資料を広く蒐集し分析を加える科学的手法と、それをふまえつつ庶民の生活そのものを描き出す民俗誌、生活誌の叙述との総合によって、学問としての完成に達するものと素人流に私は考える。そして歴史家の場合もそうであるように、この二つの能力を兼ねそなえる民俗学者はきわめて稀であろうと思う。

宮本常一はそうした稀な才能であった。民俗学といえば柳田国男がまず思い浮かぶが、柳田民俗学は、地方のアマチュア研究者からの聞き取り報告を中央で吸い上げることで成立していた。宮本常一はまさに聞き取りの周縁的な貢献をした中心人物であった。

宮本は、生活誌を蒐集する仕事の中で、いったい進歩というのは何であろうか。発展とは何であろうか、という問題を考え続けたという。「進歩に対する迷信が退歩しつつあるものをも進歩と誤解し、時にはそれが人間だけではなく生きとし生けるものを絶滅にさえ向かわしめつつあるのではないかと思うことがある」と述べている。

それはこの本を読めばわかる。貧しく、狭いムラ社会だが、そこに生きた人の人生は貧しくも狭くもなかった。どの語り部の話も、聞くものを魅了する小説の主人公であった。文句なくおもしろいのだ。このような活き活きとした物語を語れる人生は価値がある人生だと言えるだろう。宮本はそうした世の中が消えていくことを進歩と見る中央的価値観に対して異を唱えたかったのだろうと思われる。

100年前の生き方に共感できるのは不思議である。「忘れられた日本人」の中に今の私に連続する何かがまだ生きていることを実感する一冊だった。日本人論に関心のある人におすすめ。

・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html

・日本奥地紀行
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004156.html

・世間の目
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002046.html

・日本トンデモ祭―珍祭・奇祭きてれつガイド
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003898.html


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Posted by daiya at 2006年05月28日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

歴史は名もなき人々の営みの積み重ねで形作られるものだなと思いました。

Posted by: OS at 2006年05月31日 21:56

宮本常一 生誕100年 福岡フォーラム
宮本常一を語る会主催
5月27日(日) 13:00〜17:00
アクロス福岡 円形ホール

フォーラム概要
主催者あいさつ[ 代表世話人 長岡秀世 ]13:00〜13:10
ドキュメンタリー鑑賞[ "学問と情熱"シリーズから ]13:13〜14:00
基調講演[ "家郷の訓"と私 原ひろ子 氏 城西国際大学客員教授 お茶の水女子大学名誉教授 ]14:05〜15:20
パネルディスカッション[ コーディネーター 長岡秀世 ]15:35〜16:45

パネリスト
武野要子 氏 (福岡大学名誉教授)
鈴木勇次 氏 (長崎ウエスレヤン大学教授)
新山玄雄 氏(NPO周防大島郷土大学理事 山口県周防大島町議会議長)
佐田尾信作 氏 (中国新聞記者)
藤井吉朗 氏 「畑と食卓を結ぶネットワーク」
照井善明 氏 (NPO日本民家再生リサイクル協会理事一級建築士)

作品展示
宮本純子[ 宮本常一名言至言書画作品 ]
瀬崎正人[ 離島里山虹彩クレヨン画作品 ]
鈴木幸雄[ 茅葺き民家油彩作品 ]

Posted by: 宮本常一 at 2007年05月26日 07:54

宮本常一 生誕100年 福岡フォーラム
宮本常一を語る会主催
5月27日(日) 13:00〜17:00
アクロス福岡 円形ホール

フォーラム概要
主催者あいさつ[ 代表世話人 長岡秀世 ]13:00〜13:10
ドキュメンタリー鑑賞[ "学問と情熱"シリーズから ]13:13〜14:00
基調講演[ "家郷の訓"と私 原ひろ子 氏 城西国際大学客員教授 お茶の水女子大学名誉教授 ]14:05〜15:20
パネルディスカッション[ コーディネーター 長岡秀世 ]15:35〜16:45

パネリスト
武野要子 氏 (福岡大学名誉教授)
鈴木勇次 氏 (長崎ウエスレヤン大学教授)
新山玄雄 氏(NPO周防大島郷土大学理事 山口県周防大島町議会議長)
佐田尾信作 氏 (中国新聞記者)
藤井吉朗 氏 「畑と食卓を結ぶネットワーク」
照井善明 氏 (NPO日本民家再生リサイクル協会理事一級建築士)

作品展示
宮本純子[ 宮本常一名言至言書画作品 ]
瀬崎正人[ 離島里山虹彩クレヨン画作品 ]
鈴木幸雄[ 茅葺き民家油彩作品 ]

Posted by: 宮本常一フォーラム at 2007年05月26日 07:55
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