2006年02月22日
ドコモを育てた社長の本音
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ご本人とお会いしたことなどないのだけれど、文体からにじみ出る人柄に感銘。
著者は元NTTドコモ社長、現JAXA(宇宙航空研究開発機構)理事長の立川敬二氏。
最初は、
「
NTTドコモは、NTTの子会社です。NTTの副社長から、子会社のドコモの副社長に異動するという人事は見方によっては降格です。実際に給料だって下がりました。何より、私のドコモの印象が良くなかった。
」
という不本意な転籍でドコモの経営に関わることになったという。当時はまだ固定通信が主流で移動通信は傍流であった。もともと無線技術を開発していた技術系はともかく、事務系はみな嫌々移った時代だそうだ。たまたま入社時に無線技術の開発に関わった過去が、ドコモ転籍の理由のようではあった。
しかし、時代の潮流はケータイに味方していた。
立川氏は社長として、携帯電話の契約台数の飛躍的成長とiモードの大成功、そして国内、海外での3度の上場という華々しい経験をする。時価総額は日本企業として1位、世界でも米マイクロソフト、米GEに次ぐ第3位の40兆円を記録した。だが、バブルの崩壊と投資の失敗によりドコモは一兆円の損失を背負う。
最後が良くなかったとはいえ、その業績は偉大だ。今日の国内全キャリアのケータイユーザは9千万人。携帯電話とiモードは明らかにこの10年で日本人の生活スタイルを変えた。そのケータイ大国の生みの親が、現場を離れてなお熱く通信市場の更なる進化、研究開発のあり方を語っている。
1939年生まれにも関わらず今も通信技術の最前線を考えているのが凄い。著者の考える携帯電話の進化は次のようなものであった。
第1世代 アナログ
第2世代 デジタル
第3世代 マルチメディアと高速性
第4世代 高精細な映像
第5世代 バーチャルな立体映像
第6世代 テレパシーのようなもの
テレパシーは本気であるらしい。
周波数の分配技術については、3次元を前提にして割り当てるから不足してしまうのであって、数学的には4次元、5次元も考えられるから、n次元で割り当ててはどうか、というアイデアもある。突飛で変わった基礎研究が重要と言い、社長時代には研究開発費を倍増させた。
「勝手なやつ」を大切にせよ、多数派戦略を取れ、多数派になれないときは逃げろ、海外は外圧として使え、知識はT字型で身につけよ、標準化がすべてではない、定額制は間違っている、などの自論が展開される。トップに立つまでの処世術や学び方、大きな組織をどう動かすかという経営論など、わかりやすく説明してくれる。
なぜ海外ではiモードが流行らないかについては、欧米には漢字がないからではないかと分析されている。小さな液晶画面では文字数が少なくても意味の量が多い漢字が重要な役割を果たしているという。なるほどと思った。こんな風に、何かの理由を考えるときに、常に技術的なロジックを考える姿勢が参考になる。
この本は基本は大企業の経営者の自伝であるが、ケータイ進化予測としても読めるし、研究開発のあるべき論としても読める。通信技術の標準化をめぐる競争やケータイ市場の未来について、現場を離れた今だから言える本音がたくさん含まれており、面白く読めた。
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Posted by daiya at 2006年02月22日 23:59 | TrackBack