2006年02月19日

黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語
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黄金比を作図してみた。線分A点とB点の間にC点がある。AC間は322ピクセル、CB間は200ピクセルで、CB:ACがほぼ1:1.61803398...の黄金比率で分割されている。ユークリッドはこの分割に外中比という名前を与えた。

「線分全体と長い切片との比が長い切片と短い切片との比になる場合、線分は外中比に切り分けられたという。」

つまり、上の図のACとCBの長さの比が、ABとACの長さの比に等しい場合を外中比と呼ぶ。そして外中比こそ黄金比のことである。厳密には1:1.61803398...で一方の数字は小数点以下無限に続く無理数となる。数学では、この数はφ(ファイ)とも呼ばれる。

黄金比を好むデザイナーがいる。たとえばWebページの本文部の領域の横幅:メニュー部の横幅に、黄金比を用いてデザインを行う。すると、不思議とちょうどいい感じがするというわけだ。古今東西の有名画家も名画を描く際に黄金比を画面構成に適用していたと教えている先生もいる。人間の美的センスに訴えかける神秘的なはたらきがこの比にあるというのだ。

古代エジプトのピラミッドや、古代ギリシアのパルテノン神殿にも黄金比が隠れていると言う説がある。バッハやモーツアルトの音楽の小節や音符の分布にも黄金比があるという人もいる。また、人間がつくるものだけではなく、オウムガイの殻の巻き具合やひまわりのタネの配列、銀河の渦巻きといった自然の造形に黄金比を発見したものもいる。ついには株価の変動具合の中にも黄金比が見つかると言う経済学者も現れる。

本当に黄金比はすべてを美しくするのだろうか?。黄金比は宇宙を作り出す際に、神の設計図に使われた神秘の比率なのだろうか?。本書は過去のさまざまな黄金比をめぐる研究を徹底検証する。

結論としては美の秘密が黄金比にあるというのは俗説に過ぎず、ほとんどの名画や音楽の作者は黄金比を使ってはいなかった。多くのケースで研究者が、作品の中にある無数の線分から恣意的に(あるいは無意識のうちに)黄金比らしいものを発明してしまう結果、黄金比=美の基本と言う誤った結論に至っていたことがわかる。

黄金比を信奉するデザイナーには残念なことに、人間が無意識のうちに黄金比を美しいだとか心地いいと思う事実はないようだ。複数の多様な長方形群からタテヨコが黄金比の長方形を被験者が好んだなどという、一部の心理学実験があるが、著者はそういった実験の内実を調べて、その結論は疑わしいと否定している。


さまざまな美術作品や楽曲や詩のなかに(本物や偽者の)黄金比を見つけ出そうとするのは、結局、理想の美の規範が存在し、それは実際の作品によって説明できるという思いこみがあるからだ。

一方で自然の造形に無数の黄金比φが現れるのは事実である。φはフィボナッチ数列と深い関係にある。フィボナッチ数列とは、整数を前の数の和に足したときにできる数列のこと。1+0は1、1+1は2、2+1は3、3+2は5、5+3は8...。

フィボナッチ数列は、

1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,377,610.987...

と無限に続く。

このうち隣接する二つの数字の比を計算すると、4番目の3と3番目の2では1.5だが、6番目の8と5番目の5では1.6になり、987と610のあたりでは、1.618033となる。数が大きくなればなるほど黄金比φに近づいていく性質を持つ。だからフィボナッチ数列は黄金比の数論的表現であり、ほぼ同じものなのだ。

フィボナッチ数列にある種の自己相似性があることは直感的にもよくわかる。そして、自己相似性が自然界を広く支配する法であることは周知のとおりである。この本にもたくさんの自然界におけるφが紹介される。植物の葉の生え方や貝の渦巻きパターンといった生物のかたち、銀河の渦巻き、ハヤブサが獲物に接近する際の螺旋軌道など数え上げるときりがないほど普遍的にφがある。

そして驚くべきは、株価の変動や無作為に選び出した数字の表(何かの統計年鑑でもいいし、企業の会計表でもいい)の中にも普遍的にφが現れる。森羅万象をφという数学原理で理解することが可能になる。なぜそうなるのかは今も謎のままだが、この謎について著者は問題を一般化し、深い哲学的な考察を加える。

なぜ数学はこの宇宙をここまで見事に説明するのか?

歴史的にはおおきく二つの考え方がある。

1 数学は人間の思考と関係なく客観的実在として存在し人間はそれを発見するから

2 数学は人間の発明品で、観測と合うものが自然選択によって残ったから

そして最後に、対立するふたつの考え方を結びつけて、一次元高いレベルで数学と世界の関係を説明している部分は本書の最大の読みどころ。

著者は本書で国際ピタゴラス賞とペアノ賞を受賞している。

・フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004192.html

・暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004028.html

・ヴォイニッチ写本の謎
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004123.html

・四色問題
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004223.html

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・黄金比を計測し、黄金比を作るための特殊文房具 黄金比デバイダー
http://www.wada-denki.co.jp/bunguho/ctlg0760.html
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Posted by daiya at 2006年02月19日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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