2005年12月13日
花街 異空間の都市史
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80年代、ポートピア連続殺人事件という往年のPCゲームの名作があった。神戸を舞台とする探偵アドベンチャーゲームだが、物語の中で「シンカイチ」という地名が登場していた。これは新開地のこと。新地、新開地と呼ばれる土地は日本中にあるが、多くは元花街、色街であることが多いようだ。神戸の新開地の研究も一章割かれている。
まず冒頭で、花街と色街(遊郭)の違いが述べられている。遊郭は娼妓を中心にした売春宿が一定の空間の内部において認められていた地域である。これに対して花街は、「飲食店で男性をもてなす酌婦、歌・舞踏・三味線などの芸をもって宴席に興を添える芸妓」が中心の地域を指す。実際には二つの要素が重なっていた地域もあるので、完全に分離することができないようではある。
全国に500もあったといわれる花街は独特の業界システムで運営されていた。芸妓を抱える置屋、遊ぶ場所である待合茶屋、料理も出せるし配達もする料理屋が主な業界プレイヤーで、この3つが三業地(あるいは二行地)と呼ばれる組合を、各地に形成していた。この他、待合茶屋、料理屋に介在して芸妓の派遣や花代清算を請け負う検番という組織もあった。
この本は全国の花街の興亡を、都市開発の観点から分析した本。芸妓やお客の談話や逸話のような色っぽい話があるわけではないが、男女の欲望コミュニケーションが駆動して、江戸、明治の街が発展してきたという側面がわかって面白い。
「
田を埋め、畑を潰して、家が建つ、すると某所へ上記のような商売屋[銘酒屋]が出来る、人が寄ってくる、周囲に並の町家が出来て来る、町の形がだんだん整ってくる、何時の間にか、ヘンな商売屋の数が減る、やがて、全く並の町になって了ふといふ順序であったのだ。
」 (「にごり江になる迄」よりの引用)
花街はできたての町を繁盛させ、かたちが整うと消えていく、都市の「インキュベーター」の役割を果たしてきたのではないかというのが著者の意見。また、芸者遊びは当時も高級な遊びであったため、花街の形成には、各時代の有力政治家や財界人も深く関わっていたことが明かされる。一般に日本の近代化は風俗の取締りを強化する方向で動いてきたと思われているが、実際には意図的に花街を維持形成する動きもあったようなのである。
その後、花街は昭和に形成された「赤線」に呑み込まれ、その制度の廃止とともにほとんどが消滅した。代表的な料理屋や建築はいまも細々と残って昔を今に伝えているのみだが、花街、芸者の文化は、江戸文化の代表として、海外にも広く伝わっている。外国人にゲイシャってなに?と聞かれたときに、この本の薀蓄を「まず都市論的な観点からみるとね...」と教えてあげられると、たいへん尊敬されそうである。
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Posted by daiya at 2005年12月13日 23:59 | TrackBack