2005年11月09日
畑村式「わかる」技術
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失敗学、決定学、創造学の畑村教授著。
■わかるとはどういうことか
世の中のすべての事象はいくつかの「要素」が絡み合う形で、ある「構造」を作り出している。多くの場合は複数の構造がいくつかまとまって「全体構造」を成す。そして、構造同士を組み合わせ、何らかの「機能」を持っている。乗用車ならば、いくつかの部品(要素)で製造されるエンジンやタイヤ、ハンドルやアクセルが構造で、走るや曲がる、止まるなどの機能が実現されているわけだ。
わかるというのは、次の3パターンなのだという。
・要素の一致
頭の中の要素のテンプレートと目の前の事象の要素が一致した状態
・構造の一致
頭の中の構造のテンプレートと目の前の事象の構造が一致した状態
・新たなテンプレートの構築
自分がすでに頭の中に持っている要素や構造を使って新しくテンプレートをつくることで理解すること
動的な構造の理解ではさらに次の3パターンがあるとされる。
「構成要素の摘出」
静止させた状態で構成要素を確認する
「構造化」
要素同士を組み合わせて別の大きな働きをする構造を頭の中につくりあげる
「試動」
頭の中のモデルに刺激を与えて動かしてみて現実と比較する
■逐次思考と飛躍思考、直観と直感
わかるプロセスがあきらかでも、現実の事象は複雑である。すべての要素の組み合わせを逐一考えて試していては、現実的ではない。3つの選択肢から正解を3回連続で選ばねばならないようなケースでは、しらみつぶし式では27通りを試さねばならない。これが逐次思考。しかし、3回の選択を次はAだろう、次はBだろう、次はCだろうと3回選ぶだけならば、9通りを試すだけですむ。これを著者は飛躍思考と呼んでいる。
もちろん、飛躍思考で正解を得るには全体の構造を理解できていなければならない。それには過去に徹底的にそのことについて考え、演習して答え合わせまで行う経験をしていることが大切である。経験と知識に裏付けられた飛躍思考を直観と呼んでいる。直観でわかるが理想である。
直観と似て非なるものが直感や勘である。これは刺激を受けて思い浮かべたもの。なんとなくサイコロで次に5が出るような気がするという論理的根拠がない思考だ。自分の持っているテンプレートが不完全なのに、目の前の事象と一致しているように見えて、すべての説明ができるように思えてしまう錯覚にも気をつけよという。
では直観でわかる力を鍛えるにはどうすべきなのか。
■現地、現物、現人
「
現代社会で本当に必要とされていることは、与えられた課題を解決する「課題解決」ではなく、事象を観察して何が問題なのかを決める「課題設定」です。課題解決と課題設定のちがいは「HOW」と「WHAT」のちがいと言ってもいいでしょう。そして何よりも「WHAT」が社会で必要とされる時代なのです。
」
それは本当にそうだと思う。「HOW」は今はネットで検索すれば誰でもすぐにみつけられる時代でもあるからだ。変化が激しい状況では、解決すべき課題が何なのかを見抜く人が求められている。
見ない、考えない、歩かない、の3ナイがいけないと著者は指摘する。現地、現物、現人を観察し、自分で考えることが直観を鍛える上で、大切だと結論している。逆演算の重要性という章もあったが、ネットで検索するとHOWがすぐに見つかってしまう現代では、手を動かして検算する疑い深さがますます重要になってきているように思われる。
わかるという当たり前のプロセスを根底から解き明かそうとする一冊。
・決定学の法則
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001676.html
・創造学のすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000846.html
・わかったつもり 読解力がつかない本当の原因
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003801.html
・「わかる」とはどういうことか―認識の脳科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000973.html
・「分かりやすい文章」の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001598.html
・「分かりやすい表現」の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000451.html
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Posted by daiya at 2005年11月09日 23:59 | TrackBack