2005年10月17日
発想法―創造性開発のために
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初版は1967年。読まれ続けて第80版を数える発想法の古典。この本に登場する当時の最新テクノロジーは”ゼロックス”(コピー機)である。データ整理にはパンチカードをうまく使えとも書かれている。隔世の感があるが、発想法の核となる思想はまだ読み応えがある。
KJ法の考案者である著者 川喜田 二郎氏は、科学を書斎科学、実験科学、野外科学の3つに大別した。文献と推論に依存する書斎科学、実験室での検証に重きをおく実験科学に対して、現場や現実を観察するのが野外科学である。この場合の野外とは、場所が屋内、屋外に関わりなく、ものごとが起きている現場を扱っているという意味だ。社会問題やビジネスの課題を解くプロセスも多くは野外科学の範囲となる。
野外科学の方法論として、問題提起→内部探検(頭の中)→外部探検(情報集め)→観察→記録→分類→統合というプロセスを著者は提唱している。問題提起と頭の中でのまとめが終わったら、フィールドへでての野外観察による情報集めが始まる。野外観察とは現地調査であったり、インタビューであったり、アンケート調査であったりする。
野外観察の4条件として、集める情報には、
(1)とき、(2)ところ、(3)出所、(4)採集者
という項目をつけることを徹底せよという。
そして発想法の古典KJ法に集めた情報を持ち込む。
KJ法に必要なもの
1 黒鉛筆とサインペン
2 赤・青などの色鉛筆
3 クリップ多数
4 ゴム輪を多数
5 名刺大の紙片多数
6 図解用の半紙大の白紙
7 文書を書くための原稿用紙
8 紙を広げる場所
KJ法に必要な正式用具がわかったのは収穫だった。集めた情報を紙片に書き出す。意味を圧縮してほどほどの大きさの意味単位に分割する。量的には約2時間のブレインストーミングで紙片数十枚から百数十枚を書き出せという。
次にグループ化。「この紙きれとあの紙きれの内容は同じだ」「非常に近いな」と親近感を覚える紙きれを一箇所に集めていく。5枚程度の小チームを編成して中チームをつくり、同様にして大チームをつくる。チームの次元をわかりやすくするために赤や青で色分けする。小チームはクリップで、中・大チームは輪ゴムで束ねるのがよい。
1 離れ小島は無理にまとめずおいておく
2 小チームから大チームをつくる、逆はだめ
がコツ。
複雑すぎず、相互に親近感を持ちながら、ある程度質的に異なるグループは、独創的解釈を引き出す鍵になる。このようなアイデアの基点となるグループは「基本的発想データ群」でありBAD(ベーシック・アブダクティブ・データ)とも呼ばれる。
図解化、文章化にあたっては、最初にとっかかりとなるBADをみつけ、そこから隣接するグループへとつなげていくのが正しいそうである。離れた島へ飛んで図解化や文章化を行うと全体の関係の説明が破綻しやすいということのようだ。
KJ法で難しいのはグループ化の後のプロセスであると思う。A型とB型、そして複合型のAB型、BA型がある。
KJ法A型 グループ編成した材料を図解化する
KJ法B型 グループ編成した材料を文章化する
KJ法AB型 図解化したものを文章化する
KJ法BA型 文章化したものを図解化する
図解化と文章化の長所、短所を次のようにまとめている点がとても参考になったのでそのまま引用してみる。
「
まず文章化は図解のもっている弱点を修正する力をもっている。もっと平たくいえば、その誤りを見破って、発見し、かつ修正の道を暗示する力をもっている。これが一つの経験的に重要な点である。図解と文章化とを対比してみると、図解の長所は、瞬時に多くのものごとのあいだの関係が同時的にわかることである。この長所は文章とか会話にはない。しかし他面、図解のなかのものごとのあいだの関係は、「関係がある」ことはわかっても、その関係の鎖のメカニズム(たとえば因果関係)、性質、強さなどは、かならずしもあきらかではない。もちろんこれらの関係のメカニズム、性質、強さなども、わかってからあとでは図解上に表現することはできる。それにもかかわらず図解化という手続きは、それを鮮明にあきらかにするためには最適の方法ではない。すくなくとも文章などに劣るのである
それでは一方的に、文章化の方が図解化よりもものごとの関係認知の方法としてすぐれているかといえば、けっしてそうではない。文章化は今のべた点で図解化にまさるかわりに、ものごとを前から後へと鎖状にしか関係づけられないのである。
」
日本人は理論よりも、日常体験を重視するので、現場の事実や声に密着したところからスタートするKJ法が向いているが、根気のいる組み立て作業である文章化では日本人は不利になるだろう、と国民性と発想法の適性まで分析されている。確かに日本人は雰囲気を把握するのは得意だが、論理的にそれを説明する能力は不得意である気がする。
発想法の古典を読み返して意外な発見もあった。KJ法というのは、そのスタイルから純粋に帰納法的方法論であると思っていたが、当初からアブダクションの要素を強く織り込んだものであったということ。そしてアブダクションは職人芸であるがゆえに、できる人はできるが、できない人が大半という事実が、古典KJ法の限界だったのではないかと感じた。
KJ法は改良が重ねられ、コンピュータも利用できる時代になった。今も有効な手法だとは思うが、グループ化後の解釈プロセスは依然、「才能のある○○さんだからできる」という側面は否定できないように思われる。
そうした人材を組織内につくるための習慣強化技法として、私はこのブログで何度か取り上げているアイデアマラソン法が有効なのではないかと考えている。またIT(ネットワークとデータベース)が、発想を生み出すための人と人、人と情報のセレンディピティを創発するきっかけとなる気がしている。
関連情報の紹介。
・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000904.html
・「超」整理法―情報検索と発想の新システム
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003283.html
・「超」時間管理法2005
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002584.html
・創造学のすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000846.html
・情報検索のスキル―未知の問題をどう解くか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000616.html
・分かる使える思考法事典―アイディアを生み出し、形にする50の技法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000725.html
・それは「情報」ではない
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000510.html
・デスクトップ発想支援ツール
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000139.html
・文書アウトライン作成支援ツール iEdit
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000317.html
・理想のアウトラインプロセッサを求めて
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000360.html
・現場調査の知的生産法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001804.html
・「挫折しない整理」の極意
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001794.html
・知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001734.html
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Posted by daiya at 2005年10月17日 23:59 | TrackBack