2005年09月12日

心は実験できるか―20世紀心理学実験物語このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・心は実験できるか―20世紀心理学実験物語
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原題はOPENING SKINNER'S BOX : Great Psychological Experiments of the Twentieth Century。こどもを箱に閉じ込めて育てた実験、電気ショックを強制執行させるよう被験者に命令する服従実験、精神病のフリをして精神病院に入院してみる実験、脳の一部を切除してみる実験、記憶を捏造する実験など、賛否両論の有名な実験が10個取り上げられる。
1 スキナー箱を開けて―スキナーのオペラント条件づけ実験
2 権威への服従―ミルグラムの電気ショック実験
3 患者のふりして病院へ―ローゼンハンの精神医学診断実験
4 冷淡な傍観者―ダーリーとラタネの緊急事態介入実験
5 理由を求める心―フェスティンガーの認知的不協和実験
6 針金の母親を愛せるか―ハーローのサルの愛情実験
7 ネズミの楽園―アレグザンダーの依存症実験
8 思い出された嘘―ロフタスの偽記憶実験
9 記憶を保持する脳神経―カンデルの神経強化実験
10 脳にメスを入れる―モニスの実験的ロボトミー

たとえば二つ目のミルグラムの電気ショック実験とはこんな内容だ。

白衣を着た先生と患者役の役者の前に、事情を知らない被験者を呼ぶ。患者役には電気ショック装置がつけられている。機械は偽物で本当は電気は流れないのだが、被験者には知らされていない。白衣の先生は、被験者に文を読み上げさせる。その文を患者役は繰り返す。間違えたら被験者はボタンを押して、患者に電気ショックを与えるよう指示する。

患者役は故意に間違える。白衣の先生は間違えるたびに電気ショックを強くしていくよう被験者に指示を与える。高圧になると患者役は絶叫し、ぐったりする。一番上の450と書かれたボタンには「危険。極度のショック」とまで注意書きがある。被験者は途中で倫理的な葛藤に悩まされる。途中で先生役に実験中止を求めたりもする。感情的に不安定になったりもする。

だが、結局、65%以上の被験者は高圧電流のボタンを押したし、実験条件を反抗しやすく再設定してもなお、30%以上が最高の電圧ボタンを押してしまった。白衣の先生が大丈夫といったし、これが意義のある実験だと信じていたためである。人間がいかに権威に服従しやすいかを証明した実験だと言われる。

現代の基準では倫理的に問題のある実験であることは確かだ。著者は実験に参加した人たちを探してインタビューすることで、当時の実験状況の詳細や、関係者の心理状態を暴き出す。ミルグラムの実験は、正しい手順を踏んでいたのか、そして結局、何を証明したのか。

著者は明らかにこれらの心理学実験を批判的に見ている。倫理的に問題のある実験を、自己の興味や名誉のために行った科学者たちに嫌悪感を持っている表現がたくさん見受けられる。愛や利他的行動や、その他の人間的な心のはたらきを、単純な損得計算や、脳の機能モジュールに還元する考え方も好きではないようだ。

むすびで、

「(実験心理学について)
心理学と科学とが結びついたこの学問は、誕生のときから先天異常があった。自力で呼吸できなかったのである。科学を、問題を体系的に追究して普遍的な法則に相当するものを生み出すものと定義するならば、心理学はその条件を満たすことに失敗し続けてきた。科学は現象を命名し、分離し、時間関係の中に位置づける。けれど、どうやって思考者から思考を、流れる思いの中から観念を分離できるというのだろう。

と著者は見解をまとめている。

これらの心理学実験の話は、マーケティングやコーチング関係のビジネス書にも、論拠として取り上げられているのを目にする。だが、実験環境と実世界は異なるし、一人の人間が必ずしもすべての状況で一貫した行動をとるわけでもない。実際にはかなりいい加減な実験もあった。有名な科学者の実験だからといって、無条件に信じては危ないのだということがよくわかる。

・ 「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003417.html


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Posted by daiya at 2005年09月12日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

このブログには、授業で「ローゼンハンの精神医学診断実験」に興味を持って覗きに来たのですが、模擬精神患者を見抜く事ができないとは・・・衝撃です。

Posted by: walk the wards at 2005年09月15日 18:11
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