2005年06月30日

カーニヴァル化する社会このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・カーニヴァル化する社会
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この本のいうカーニヴァルは、2ちゃんねるで突発的に起きる「祭り」のような、歴史や物語とは切り離された度を過ぎた祝祭ムーブメントを指している。明確な「動機」や目指すべき「理念」、依拠すべき統一的な「物語」を欠いた祝祭が日常化することの背景と意味が考察対象となっている。

こうした祝祭ムードを醸成する重要な要素として若年層の労働環境問題が最初に取り上げられる。ニート・フリーターの増加、モラトリアム層の増加、不毛なやりたいこと探し、将来に確信が持てない状況が、若者の心に一種の躁鬱的な人格分裂をもたらしていると著者は論じている。ネットの祭りが過剰にポジティブだったり、ネガティブだったりする理由となる。

昔は家庭から会社へ一直線につながるライフコースがあって、若者は子ども時代は家庭に甘え、成長したら会社に甘えることで一人前のゲタをはくことができた。しかし経済の低成長時代に入り、雇用が減少すると会社に甘えることができなくなる。モラトリアムに入った若者は、就職面接でも聞かれる「やりたいこと」探しを始める。だが、社会と希薄な関係性しか持たない状態で「やりたいこと」や「本当の自分」を無理やり捻り出そうとしても、貧困な答えしか出てこない。そのような宙ぶらりんな若年層の気持ちのはけ口としてインターネットの匿名掲示板が使われているということのように読めた。

またカーニヴァル化を支えるテクノロジーとして、自己監視社会とデータベースが取り上げられた。監視カメラやセンサー、コンピュータとネットワークの個人情報管理技術の発達は必然的に監視社会化を強化する。また、偏在するデータベースは個人情報を外部が監視するのに使われるだけでなく、自分自身が使うものになっている。


気がついてみれば私たちの周囲は、データベースとの相互審問によって、自己の欲望するべきものについての理解を得るような振る舞いで満ちあふれている

データベースとの相互審問の事例として、よく聞いている曲のランダムリストが作成される音楽プレイヤーiTunesや、ユーザの購入状況から自動的に関連書が推薦表示されるオンライン書店アマゾンが例に挙げられている。よく聴く楽曲や、買う本をデータベースに登録する代わりに、欲望を刺激する推薦商品リストが提示されるということ。

こうしたデータベースとの審問を通じて喚起される欲望は消費スタイルを変化させる。マスメディアが、「今はこれが流行です、もっていないと遅れますよ」と宣伝して買わせる消費は、情報化の進展に伴い退潮するという。その代わり、誰かが薦めるからではなく、自分にとってネタになるかどうか、で消費するものを決める「ネタ消費」の時代に変わりつつあるのだと指摘している。

そして、現代は、歴史的な価値観を共有する共同体ではなく、


ある種の構造を維持していくことではなく、共同性 ーーー<繋がりうること>の証左を見出すことーーーをフックにした瞬発的な盛り上がりこそが、人々の集団への帰属感の源泉となっているのである。

という意味で感性を一時的に共有することを重視した共同性の時代なのだとまとめられている。

ビジネスマンとしては、こうしたキター!風のカーニヴァルの中で大量に「ネタ消費」できるモノは何か、どうしたらそれが売れるか、が気になってくる。最近のアマゾンを初めとしたWebショップの売れ筋にも、確かにネットの祭りと連動したネタ消費が上位に入っていることが多いと思う。

このブログで発生したネタ消費では、

・Passion For The Future: キッパリ! たった5分間で自分を変える方法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002147.html

これなど代表例である。この本は実によく売れた。(それ以上にコメント欄が荒れた...)。

雇用問題から、監視社会、データベース、共同体から共同性へとテーマは各章でめまぐるしく変わる。この本は、(著者自身もそのように前置きしているのだが)全体として一貫した論理にまとまっているとはいいがたいように感じた。だが、各論についてはどれもとても面白く、時代の空気を的確につかんで考察している部分が多い。ネット社会の最新のキーワードを見つけたい人におすすめ。


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Posted by daiya at 2005年06月30日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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