2005年03月16日

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・ありえない日本語
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■そのありえないは、ありえない

若者言葉の研究を一般向けにやさしく解説してくれる本。

なにげに
うざい、きしょい
よさげ、やばげ、ひどげ、おもしろげ

など、この本で紹介される言葉づかいはウェブ上でも書き言葉として使われる。言葉の普及状況や、受容度のアンケートの数字が出ていたり、言葉の変化の背景にある若者文化や心理の変化が深く解説されていて勉強になる。

標題となった新しいタイプの「ありえない」もよく聞くし、これに限っては自分でも使うことがある。たとえば、

友:取引先のA社の社長さん、突然、失踪しちゃったらしいよ
私:え、あんなに景気のいい会社の社長が?、そんなのありえないって

だとか、

ヤフーオークションで古いPCを出品してみたらありえない高値で売れてしまってさあ

といった具合である。

本来は、現実に確定していない未来のことに対して「ありえない」が使われていたのに対して、現実に確定した過去に対しても「ありえない」と言えるようになった。著者の調べでは大学生の8割がこの新種のありえないを気にしないと答えている。近い将来、国語として定着していくようだ。

年長者の世代はこうした「ありえない」の代わりに「信じられない」を使うと著者は説明している。そして、その言葉遣いの背景にある心理の相違を次のように解説している。


これは自分がもつ現実世界についての情報を保持し、それと合わない現実世界のほうを切り捨てるというほう構成を持つ。「現実にはこうだけど、わたし的にはこうだ」ということである


「信じられない」と言う話し手にとっては、世界は変更可能なものだが、「ありえない」と言う話し手にとっては、世界は変更不可能なものである。

若者は世界より自分の方がリアルに感じているということか。

同じように新しい用法で使われるようになった「やばい」についても取り上げられる。「やばいくらいイイです」「あのゲームよくできてて、やばいよ」のように肯定的に使える「やばい」。

■私ってブログを毎日書いてるじゃないですか?

知らない業界人とパーティで会って、

「私って業界のいろんな人と会うじゃないですか、それでこの前...」

などと言われると内心、

しらねえよ

とつぶやいてしまったりする。

このタイプの「じゃないですか?」も時々聞く。だが、8割が受容した「ありえない」とは違って、「じゃないですか」は若者の66.9%が「気になる」、つまり違和感のある表現と感じているそうだ。

この言葉を使うのはコミュニケーションに積極的なタイプに多いらしい。じゃないですかは、相手にも自分と同じ知識の共有を求める言葉だ。だが、自分の個人的な体験を初対面の相手が知る由もないことは、話し手も、内心わかっているはずである。著者によると、この「じゃないですか」は、


コミュニケーション能力の未熟さによって、共有知識の見積もりに失敗しているわけではなく、むしろ、失敗することを前提に、親しさを演出したコミュニケーションを行おうとしているのだと考えられる。

一見、言葉の乱れのように見えながら、相手とのコミュニケーションを大切にする若者が、既存の文法や語彙に適切な用法がみつからず、新しく発明してしまった言葉なのだ。社会的なものである言葉を、一方的に発明するのってどうよ?とか思ったりもするが、なにげに、思いやりから言葉遣いがよさげに変わっていくというのはチョベリグかもしれない。(無理がある)。

■新しいカタカナ

カタカナ語の変化の事例も詳しい。

ゲッチュ、ポインツ、パーフェクツ、サンクー、プリチー、チェケ、チェキラ

ああ、確かによく耳にするようになった。著者はニュータイプ外来語と呼んでいる。

英語の発音に近づけようとした本物指向のもの、古臭い日本語っぽくすることで逆に新しさを求めたものなどが混ざっているそうだ。

英語の日本語化が行われる際の音素数と文節構造の変化法則からニュータイプ外来語を作る方法まで解説されている。この法則を使って新語を作って流行させることができるかもしれない。マーケティングの視点で見ても役立つ知見だ。

漢字をカタカナ語にする例も増えているという。

ソッコーで
センパイが
ホントは
ケッコー時間がかかる
スミマセン

あるある。

著者の研究は、アンケート、インターネット上の表記、メール、テレビ番組のトーク、少年少女マンガ、ヒットソングの歌詞など膨大な資料から、調査を行っている。10年や20年と言うスパンでも、日本語にかなり大きな変化が起きることが分かってくる。

・Subculture-Linguistics
http://www.ifnet.or.jp/~akizuki/
著者のサイト。サブカルチャー言語学。面白くてやばすぎ。


関連書評:

・問題な日本語―どこがおかしい?何がおかしい?
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002920.html

・日本語は年速一キロで動く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002025.html

・関西弁講義
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001143.html

・かなり気がかりな日本語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001093.html

・犬は「びよ」と鳴いていた―日本語は擬音語・擬態語が面白い
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000935.html


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Posted by daiya at 2005年03月16日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

言葉の乱れをなんとかしたい動きとは裏腹に、最近のベストセラー、文学賞をとっているような小説は、みんなこういう言葉でつづられているんだよなあ、とふと思ってしまいました。
わたしも歳をとったのかしら。。。

Posted by: izumin at 2005年03月17日 10:54

ちょっと立ち読みしました。
漫画の言葉に言及していたあたりでこれは方言なのではないかと思われるものがありました。
自分は東海地方出身なのですが、同じ高校出身の漫画家が地元の方言を作品に出現させていることが多々ありました。もちろん、若いコミュニティというものと同様に、地方コミュニティと分けてしまえば、標準語(自分は横浜方言の旧文部省方言(?)と認識していますが)ではないとして一刀両断されるでしょう。
本屋でパラパラと眺めただけなので、もしかしたらそういったことについても本文中で言及がありましたらご勘弁を。

Posted by: wataru at 2005年03月17日 15:53

バンコクから初めまして。
興味深くエントリー拝見させていただきました!
TBさせていただきました。
ありえない日本語、面白いですね♪

Posted by: ロタ at 2005年03月23日 19:14

偶然このサイトに入り込みました。大変面白く、有益です。一つ気付きました。

英語族の人はよく、"you know!" という言葉を会話の途中に挟みます。〔・・・じゃないですか〕と似ていませんか?
これを言われると、私は"No, I don't" と言いたくなるのです。

Posted by: 三村道夫 at 2005年07月12日 23:54
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