2005年03月14日
景気とは何だろうか
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■景気は良くなっても暮らしは良くならない日本経済
今年(2005年)になってから書かれた新しい内容。
景気はこれからどうなるのか、誰しも気になるが、今は上向きなのか下向きなのか、そもそもが分からない。銀行出身の経済学教授が現代日本の景気について解説してくれる本。経済の基礎から、戦後日本の景気循環のまとめ、構造改革とは何か、不良債権問題まで、景気の見方を与えてくれる本。
2003年から2004年にかけて、GDP、企業業績、雇用などの統計指標は若干の上向きを見せた。構造改革の成果がでてきたと政治家は説明した。
だが、これは業種間、企業規模間の格差が大きい景気回復で、
業況のいい業界の大企業の調子はきわめて良い
業況の悪い中小企業の業況はきわめて悪い
であることが数字から判明する。
数の上で前者は少数で後者が圧倒的多数であるから、景気が良いと実感を持てる人はほとんどいない。国民生活基礎調査の「生活意識の状況」項目では「やや苦しい」「大変苦しい」と回答する人が増え続けている。
そもそも、この回復基調が構造改革の成果でさえないのだと著者は述べている。
この本では4つの景気循環の波が紹介されていた。
ジュグラーの波 約10年周期 企業の設備投資の循環
コンドラチェフの波 約60年周期 技術革新?
クズネッツの波 約20年周期 建築投資の循環
キチンの波 約40ヶ月周期 在庫投資の循環
景気循環の中期、長期の波で考えるならば2005年というのは次の好況への入り口であっておかしくないようだ。本来であれば2000年頃に好況があってもおかしくはなかったらしい。著者は1997年を不況の起点と考え、その原因は政府の金融政策の失敗だと説く。そしてその後の構造改革が、本来は好況に移行できるはずの日本経済に、悪影響を与えているという。
■構造改革批判、不良債権の処理は急ぐ必要がない?
小泉政権の構造改革とは、停滞分野にある経済資源(資本、労働)が市場を通して成長分野へ流れるようにする、そのための障害を取り除くことだと、要約されている。成長分野の育成と停滞分野の除去である。
しかし、成長分野に資源を流しても、それほどの成長の需要があるわけではなかった。むしろ停滞分野を除去する過程で一層景気を悪化させてしまったではないか、と批判する。
不良債権の処理は効果がないか、急いで行えば有害でしかない、という著者の主張はなるほどなと思った。1995年から2003年までに処理した不良債権は80兆円、2003年末の数字で26兆円が残った。だが、これをもともと不良債権が100兆円以上あって、10年で80億円も処理しましたと考えるのは正しくないという。実は95年度の不良債権残高は28兆円だったのだそうだ。つまり、10年で抱える不良債権残高は2兆円しか減らなかった。残りの80兆円はその10年の間に発生したとみなすのが正しいという。これでは幾ら処理しても終わらないのである。
そもそも不良債権と正常債権の区分は主観的なもので、見る人によって線引きが異なることを著者は指摘する。処理を急げば、まだ生きている、可能性のある会社まで潰してしまうことになる。
この10年は私にとって社会に出て働き始めた10年だった。IT業界はバブルがあって、反動不況があって、今また好況へ向かっている感じがする。自分が体験した10年は日本経済全体の景気とはあまり連動していなかったなと思う。この本が言うように、自分の財布(この本で言う、暮らし)と景気も連動していない。お金があったりなかったり。世の中にはもっと大変だった業界もあるだろうし、もっと笑っていた業界もあるだろう。
そういう個別ケースが増えるということがこの本に書かれている。景気が良くなれば国民全員の暮らしがよくなるという単純な関係ではなくなっている。つまり、漠然と景気が良くなるのを待っていてはダメだということだ。
暮らしをよくするための施策として、この本では所得の増大、雇用の拡大、将来への不安の3つが重要とされ、提案がまとめられている。とりあえず、暮らしも重要なのだけれど、時間の大半を費やしている仕事の世界の、景気、もっと良くなって欲しいなあ。
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Posted by daiya at 2005年03月14日 23:59 | TrackBack