2004年11月15日
中国経済 超えられない八つの難題 「当代中国研究」論文選
スポンサード リンク
著名中国経済学者が投稿する米国発行の学会誌「当代中国研究」から選りすぐりの投稿論文を集めた本。言論の自由が制限されているため、一度、海外の学会誌を経由しないと、本当のことが書けないという現状が冒頭で嘆かれている。
中国は毎年7%、8%のGDP成長率を達成していると発表されている。これが中国の経済成長への期待の核心にあることは間違いない。だが、いきなり、この本では高成長率はまやかしであるという意見が展開されている。7、8%というのは数字ではなくて高成長していなければならないという意味の「記号」に過ぎないと書かれている。
そもそもこの数字は高成長必須という国家政策の圧力のもとで、各地方が実態よりも大きい数字を報告して合算した結果なのだと指摘がある。特に製造業の数字は調査で検証しやすいが、サービス業の数字については虚偽報告がばれにくい。国家統計局もある程度水増しを見抜いて計算するものの、まだまだ水分の多い数字であるというのだ。
また、この国の成長率は確かに高いようだが、不完全な市場経済国家と他の先進諸国の成長率を並べて比べるべきではないという学者もいる。彼らによると中国の経済成長率7,8%は先進諸国の3%成長と同レベル。つまり、普通の経済成長が維持できる最低限のレベルと同じ水準でしかないという。
現在、2008年の上海オリンピック、2010年の万国博が国家的プロジェクトとして経済の牽引力となっているが、過去の大型イベントの後に経済が落ち込んだ開催都市が多い事実もあるそうで、2010年以降の中国経済は破綻の可能性さえ見え隠れするという学者もいた。
株式市場では企業の虚偽報告がまかり通っており、投資では特定利益集団が形成され、株価操作が日常的に行われている様が報告される。いわゆる仕手筋の存在なのだが、これなしには市場が存在し得ないくらい大きな役割を果たしている。一般投資家は仕手筋につながって踊ることでおこぼれをもらう。このようなカジノ市場では長期投資はほとんどなく、短期の投機ばかりになる。
投資バブルの一方で内需や雇用が逆に低迷していることはたくさんの学者が指摘している。世界の工場から世界の消費の中心へ変貌するというのが中国経済のバラ色の未来イメージなわけだが、このままでは消費は増えてはいかない。
都市部と農村部の経済格差がこの本でも強く指摘されている。統計上は平均すると高成長でも、その恩恵を受けているのは政策上優遇された都市部のエリートのみであって、農村部はいまだ前時代的な経済水準にある。人口の7割を占める農民だが広い国土に分散しており、教育水準の低さや組織力のなさにより、都市住民と比較して政治的な声を持たないのも原因だという。彼らの所得が上がらないため消費は伸びず、内需は一向に拡大しないわけである。
話を総合すると一部のエリート層が利益形成を活発に行っており、不動産市場と株式市場のバブルが全体を強烈に牽引している、いびつな全体構造が浮かんでくる。この状況は海外投資家にとって、コネ(関係)と情報を持っているなら短期で買いだし、長期では逃げろというのが正しい戦略といえるだろう。
中国は経済の外部にこそ正常な成長モデルへの転進の鍵がありそうだ。基本は政治と密接に結びついた統制経済であるから、部分的な市場経済部分だけを見て判断してはこの国は正しく見ることができない。この論文誌が海外でしか発行できない理由であるとか、貧困にあえぐ農村部の実態などに、どう中央政府が改革を行えるかが、長期的展望を決めていくことになる。
この本の内容は真実なのか、それも実は分からないのが悩ましい。一流の経済学者による論文であることは確かなようだし、中国内では政府発表を真っ向から否定する意見は出版されない。少なくとも中国の急成長は目に見える部分は本当だろうが、何十年に渡って急成長を続けるという国家の予測は根拠がないだろう。どちらにも真実と嘘がありそうだ。
両者の意見をバランスを取りながら、自分なりの中国経済観をつくるために、おすすめの一冊。
眠れる獅子は本当に起きたのだろうか?。
・Passion For The Future: 中国人の心理と行動
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002517.html
・Passion For The Future: 中国経済大予測
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002482.html
スポンサード リンク
Posted by daiya at 2004年11月15日 23:59 | TrackBack