2004年11月14日
中国人の心理と行動
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日本人論、米国人論、英国人論などは数多いけれど中国人論はほとんど語られることがなかったとして、中国に詳しい比較社会学者が書いた本。戦後、欧米との比較に熱心だった日本では日本人論がたくさん研究されてきた。それに対して中国では、社会学や心理学が「ブルジョワ科学」とされ長い間停滞したため、中国人らしさとは何かが、あまり語られていないらしい。
この本では、中国人社会の心裡メカニズムの基本は「面子」「関係」「人情」にあるとして、それらの働きを考察する。この3つの言葉は中国語と日本語では意味が微妙に違っている。
中国社会とは、自尊心の強い自我中心型の個人が、相互の面子を大切にするために、高度な人間関係の調整技術を発達させていった社会であるようだ。
基本は4者関係にある。面識のないAさんがBさんに頼みごとをしたいとする。だが初対面の人にいきなり依頼しては「面子」が失われるので、お互いが中間人と呼ばれる代理人Cさん、Dさんを立てる。中間人の二人は、互いの依頼者の面子をつぶさないように、「人情」も潤滑油に使いながら、「関係」を作る。
どの国でもこのような関係調整は存在しているのだろうが、中国では特にこの調整が社会の隅々までをに影響を及ぼしていることがうかがえる。それは日本人の感覚からすると公私混同の社会でもあるようだ。中国の官僚組織では縁故採用やバックマージンが横行しているという。
「将来、あなたが要職に就いており、能力はないが昔からの友人があなたのところに来て職を求めてきた場合に、職を与えるべきでしょうか」というアンケートを実施したところ、与えると答えた日本人は6割に対して、中国人では8割。国有企業労働者のアンケートにおいても、企業内で昇進し成功する条件として、44%の労働者が「関係」を挙げている。これは13%「能力」を上回っている(幹部の意識調査では「能力」が1位になる)。
また、頼みごとをしたいときの贈り物「送礼」は、個人同士だけでなく、ビジネスマンと役人の間でも成立しているらしい。日本のお中元と違うのは、特定の頼みごとがあるときに一方向で贈られること。日本ではほとんど賄賂であろう。
もちろん、若い世代では意識はだいぶ変わってきているらしい。だが、根本的にはバックマージンや縁故採用が、法的にも道徳的にも、悪ではない社会だったからそうなっているということでもあるらしい。日本人が比較して批判するのは意味がなさそうだ。
面白いのは対人距離を3つのタイプで厳密に分けているという心裡の話。外国人が、中国社会に上手に入っていくには、誰の紹介ではいるかが大切だということでもある。
中国人は他者を「自己人」=身内、「熟人」=知っている人、「外人」=知らない人の3タイプに分類しているという中国人の研究が紹介される。それぞれのタイプは順に「欲求原則」「人情原則」「公平原則」が支配しているという。
自己人は家族同然であり、計算度外視で、持っている資源を与えるが、相手にも同じ行為を求める。外人は公平に扱われるがほとんど無視される。中間の熟人は相手が自分の求める資源を持っているかどうかで価値が決まる。
熟人同士の間では「人情」が潤滑油として使われる。「人情を作る」「人情を送る」という日本にはない語法が面白い。贈り物をすること、便宜を図ることの意味である。こうしたやり取りの中で親疎を調整していく。3つのタイプの間の仕切りは厳密で、どのタイプであるかによってまったく扱いが違ってしまうということ。
ここに描かれる中国人気質、一見、ドライでワガママに見えるのだけれど、人間関係を重視しているのは彼らの方なのだなという気がした。
この本で紹介される精神分析に詳しい人のコメントによると、
「日本人の場合、相手の期待に沿えないでノイローゼになるケースが多いが、中国人の場合は逆に、相手が自分を理解してくれないと思ってノイローゼになるケースが多い」
そうである。
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Posted by daiya at 2004年11月14日 23:59 | TrackBack
心裡と文中に書かれていて、心理の間違いかと思いました。辞書を調べてその言葉の意味を知り、改めて言葉をうまく使っているなあと感心しました。
Posted by: Bemused at 2004年11月15日 09:47僕は、日本人として、NYにいるときに中国人のコミュニティーと仲良くするのに四苦八苦しました。
ここに書かれている人間模様も手に取るように見えました。
私からすれば、お互いの結びつきは日本人より強く、よそ者にたいする目も厳しい。
個人個人と仲よくなる事は簡単、しかしその人を介してさらに他の中国人と仲よくなる事は難しかったです。
中国人の中、中国語を知らない私がとびこんでも英語を話すことはありません。しかし日本人は日本語でコミュニケーションをとれない人をみたら、輪の中で共通の言語を探し、それを使うような人が多かった。
中国人は異国の地でお互い中国人だと知ると意気投合し、コミュニティーを作り上げて行くスピードも半端じゃなく高い。同胞を見れば極端に親近感がわいているのが目に見えてとれる。電車で同じ中国人をみたら助け、友達になる。
日本人は日本人で、有る程度のコミュニティはあっても、往々にして朱に交われば赤くなるという感じ、「どうしてNYにいるのに日本人と仲よくしなきゃいけないの」というような心理が働いていました。どちらかというと外人と仲よくしたがる。電車で困っている人をみても東京とにたようなもの、見て見ぬ振りが多い。
同じアジアからきていてこうも違うかと実感した出来事でした。
Posted by: だいすけ at 2004年11月15日 18:47