2004年07月30日
脳の中の小さな神々
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■みのもんたの脳科学
脳科学の成果をベースに設計したという”脳を鍛える”本が大変売れている。
たとえば、このシリーズは2冊で100万部を突破しているらしい。
・脳を鍛える大人の音読ドリル―名作音読・漢字書き取り60日
(個人的には音読が楽しかった)
特に中高年のボケ防止に人気があるようだ。たまたま実家にあったので、私も試してみた。単純な計算と音読の繰り返し。確かに何もしないよりは、効果があるのだろうけれど、これで本当に脳を鍛えられるのか、釈然としない気持ちが残る。
これらの本の”脳を鍛える”根拠は、脳の状態を測定すると、単純計算や音読を行っているときに、特定の部位で強い活性化が見られるから、というものだ。だが、脳は複雑に全体がまとまって機能するものである。著者は、脳を部分的に鍛えても無意味だと、こうした機能局在論的なアプローチを批判する。これを食べれば頭がよくなる式の「みのもんたの脳科学」だとばっさり斬り捨てる。
■小さな神々の正体
この本のテーマは、以前書評した「脳内現象」とほぼ同じである。ただし、こちらの方がはるかに分かりやすい構成になっている。併せて読むと茂木氏の意識科学、クオリア論について一層の理解が進む。元「ユリイカ」編集長でジャーナリストの歌田明弘氏が聞き役となった13回の対談パート+書下ろしの特別講義で構成されている。
・脳内現象
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001847.html
人間の意識は、脳細胞の活性化パターンから生まれるが、パターンは何者かが解釈しなければ意味を持てない。タイトルにある「小さな神々」とは、脳細胞の活性化パターンを見渡す超越的な視点を持つ小人(メタ認知的ホムンクルス)のことである。
「
ホムンクルスという主観性の枠組みは、脳の前頭葉を中心とする神経細胞のあいだの関係性によって生み出される。そのようにして生み出されたホムンクルスが、自分自身の一部である神経細胞のあいだの関係性を、「あたかも外に出たように」眺めることで、そこに「つやつやとしたリンゴ」というイメージが生じる。どうやら、私たちの意識はそのようにして生み出されているようである
」
■頭がよいってどういうこと?
「みのもんたの脳科学」という言葉が印象的だったので、以降の章を、本当の意味で脳を鍛える、頭をよくする、天才をつくるにはどうしたらよいかという視点で読んでみた。
著者は、無理をして想像力を発揮する(脳を活性化させる)ことはできないとし、脳が素晴らしい能力を発揮しているときには、むしろ抑制モードに入っていることを指摘する。脳細胞がある目的に集中特化したはたらきをするように、関係のない部位のはたらきを抑制する状態のこと。
「ウイナー・テイク・オール、勝者がすべてを取るというのが抑制の実態です。あるモードで脳を働かせているときにはほかのモードにならないように抑えているわけです。そうじゃないと混乱しちゃう」
だが、一方で、天才ピアニストの神がかった演奏や、アインシュタインのようなひらめきは、ある種のセーフベースがある上での脱抑制が必要なのだという。セーフベースとは意識せずに何かを行うことができる熟練した技能である。セーフベースがあると、自分のやっていること自体(ピアノの弾き方、物理学の基礎など)を意識せずに、やることができる。十分な練習で基本技能を修得した上で、リラックスして夢中になって何かをするときに、創造性が発揮されるということらしい。恋みたいなものだと著者は笑う。
俗世間的な頭のよさの尺度=IQについても興味深い話があった。ニュージーランドの軍隊が長期に渡って調べたところ、時代と共にIQは向上しているらしい。だが、まさか数十年でヒトが進化するわけもない。フリン効果と呼ばれるこの現象の原因は、IQは生得的なものではなく、ある解決法に対する教育効果が何世代にもわたって続いた結果の、文化依存的なものなのではないかと結論している。生物学的に頭のよい人がいるというわけではなくて、属している文化が頭のよさを規定しているのだとということ。なるほど。
ほかにも、聞き出し役の歌田氏のうまい質問設定によって、「脳内現象」よりも、著者の本音が聞けるのが面白い。意識の科学がアインシュタインの相対性理論級の大発見になる日がくる、と考えながらも、それは100年かかるかもしれないと述べ否定的な結論をしている。だが、著者が情熱的にクオリアについて語る口調から、まだまだ諦めていないような印象がありありと感じられる。
脳、意識、こころの探求は、21世紀に宇宙探検よりも大きな成果を生み出す分野なのかもしれないなと思った。
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Posted by daiya at 2004年07月30日 23:59 | TrackBack