2004年06月07日
決定学の法則
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著者は東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏。企業組織の失敗を分析し、学会まで設立された「失敗学」に続き、「創造学」を提唱してヒット、次は「決定学」で最善の解にたどり着くための体系的な頭脳活用システムを語る。
機械工学科出身の著者は、設計図がどのような決定プロセスで作られているかを分析した著書を持ち、その経験を一般化して、組織や個人の意思決定を理論化している。創造学や失敗学でも取り上げられた「思考平面図」「くくり図」「思考関連図」「思考展開図」などのキーワードが再登場する。
■おもいつきを重ねて思考平面に転写する構造選択
人間の思考には、知識、山勘、経験、生き方、好みなど幾つかの、次元の異なるレイヤー(思考平面)が存在し、ここに何らかのテーマが与えられると、各平面で脈絡なくバラバラに要素のつながりができあがる。日常の言葉で言うなら「おもいつき」で、イメージ的にはマインドマップに近い。
このバラバラの孤立分散したレイヤーを重ね合わせ、最も下にある思考平面図へパターン転写することで、決定に向けた統合を行う。転写される際に、経験のレイヤーは大きな役割を果たす。
著者は、決定の本質は選択であり、以下の3つのパターンに分類できるとする。
・単純決断 やるかやらないかを決める
・単純選択 選択の結節点に集まる選択肢の中からひとつを選ぶ
・構造選択 複雑な選択肢の分岐構造から、全体として一つの道筋を定める
特に構造選択が、現実の決定に近い。企画立案や戦略決定も、単純決断や単純選択の数はさほど多くはないからだ。やることは決まっていて、直近の選択内容も明白なのだけれど、ゴールにいたるまでの道筋をどう描くかこそ重要な問題なのだということ。
どれだけ豊富な選択肢の中から、ある構造が決定されたかというプロセスの質が、決定の質において、重要なのだと著者は言う。豊富な経験や知識がある人間は、たくさんの選択肢の中から、適宜、最適な構造を選んでいるから、外部要因による、かく乱に対しても、安定して効果的な解を選ぶことができる。
また、同じ道筋が使われれば使われるほど強くなる脳の情報伝達経路と同じように、経験や知識が豊富になると、ある構造決定にいたる道筋を太くする。潜在的な選択肢の数が多いだけではだめで、著者が”活線状態”と呼ぶ、アクティブなリンク構造の数が、決定の質に大きく関わるとする。生きた経験や知恵が重要だということか。
■人、モノ、カネ、時間、気、十七の経験則
決定に付随する5つのテンプレート「人」「モノ」「カネ」「時間」「気」についての一般則があるという。人、モノ、カネは、物事の流れを説明するのに、よく聞く組み合わせだが、「時間」と「気」は新しいと思う。決めるまでの時間や時期が「時間」要素、決定プロセスを取り巻くムード、モチベーションが「気」の要素である。
時間内で確信の持てない判断の連続がビジネスだと言えるので、ここで分析される、決定における迷い、心理ポテンシャルをどう乗り越えるか、は本質的なテーマだと思った。そうした現実の決定のケースとして吉野家の価格決定プロセスが挙げられる。最初に著者が公開情報から、こうした決定プロセスがあったのではないかと仮説を立てて、その後、吉野家社長本人にインタビューして検証する。研究室を飛び出しての、分析が活き活きとしている。
最後に「成功のための十七の経験則」として、理論でない、ノウハウがまとめられている。「論理は跡付け」で好き嫌いの気分で決めていることを認めよ、それ自体が悪いわけではない、とか、「成功に必要な条件が満たされることは絶対にない」自分で決めることが大切など。
選択肢の見えない不完全情報下で、迷いながら、個はどのように決定を下すべきか、そのノウハウは何か、理論と実践で迫る本。同じ著者の失敗学か、創造学について一緒に読むと理解が深まる。
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Posted by daiya at 2004年06月07日 23:59 | TrackBack