2004年05月29日

トンデモ科学の見破りかた −もしかしたら本当かもしれない9つの奇説このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


スポンサード リンク

・トンデモ科学の見破りかた −もしかしたら本当かもしれない9つの奇説
4794212828.09.MZZZZZZZ.jpg

物理学の教授が、学会の異端児たちの、常識に反する仮説を、科学的見地から検証する。
取り上げられたのは以下の9つ。

第1章 トンデモ科学の見破りかた
第2章 銃を普及させれば犯罪率は低下する
第3章 エイズの原因がHIVというのは嘘
第4章 紫外線は体にいいことの方が多い
第5章 放射線も微量なら浴びた方がいい
第6章 太陽系には遠くにもう一つ太陽がある
第7章 石油、石炭、天然ガスは生物起源ではない
第8章 未来へも過去へも時間旅行は可能である
第9章 光より速い粒子「タキオン」は存在する
第10章 「宇宙の始まりはビッグバン」は間違い
第11章 まとめ

知らないことってあるものだなあと、驚かされる。まず、ここに取り上げられたような仮説があることさえ知らなかった。また、そのうちの幾つかには、本当である可能性を感じる。

たとえば第5章「放射線も微量なら浴びた方がいい」で主題となるホルミシス効果。被爆国の日本では、このテーマはタブーとする風潮さえあるようだ。低レベルの放射線が体に良い可能性があるという、理論である。

日本の、原爆を生き延びた被爆者の死亡率を、他の日本人の死亡率と比較すると、実際には被爆者のほうが長生きしているという、意外な事実があるそうだ。これに対して、それは彼らが原爆を生き延びた生命力の強い人たちだからだ、とする「健康な生存者効果」という反論もあるのだが、著者は統計分析によって、これを斥ける。諸外国の研究者の低レベル被爆の研究も、ホルミシス効果の存在を裏付けている。

身近な話題としては第7章の「石油、石炭、天然ガスは生物起源ではない」もまた興味深い。個人的に不思議に思っていたことがあった。私の年代は、子供のころ、石油は、何億年も昔の生物の死骸が堆積してできたもので、量は限られており、節約しながら使わないと、あと20年、30年しか持たないかもしれない、と先生から教わった。だが、それから20年経過した今、石油が枯渇した事実がない。新たな油田さえ発見されている。採掘技術の進歩もあるが、根本的には、石油は思ったよりたくさんあったわけだ。

石油は人類が心配する必要がないほどいっぱいある。石油、石炭、天然ガスは、生物起源ではなく、もともと地球を構成している物質であって、地中奥深くにこれからも見つかり続けるだろう、とするのが、この仮説の概要。これもまた、今までの地質学、エネルギー学の体系に真っ向から反論するものなのだが、認めざるを得ない事実が幾つか含まれている。

この本の面白さは、9つすべての仮説の”トンデモ度”を4段階で、著者が最後に評価しているところである。専門知識を必要とする話題ばかりなので、読み進めるうちに、結局どうなの?という疑問がわきあがるのだが、この主観的判定があるおかげで、爽快な読後感になる。主観とはいえ、トンデモ度の判定基準も10項目明示されている。

ところで、先週、私はひとつのトンデモ仮説に見事にだまされた。いや、だまされたのは私だけではなかった。発端となるのがこのブログの記事だった。記事を書いた作者自身がだまされていた。

・チワワは犬に非ず
http://x51.org/x/04/05/2658.php

「この度、米シアトルにて、人間と犬に疾病を引き起こす共通の遺伝子を探るため、人気種85種を含む414匹の犬のDNA解析を行なったところ、犬の起源にまつわる驚くべき事実が明らかになったとのこと。「今回の実験でいくつかの思いがけない発見がありました。例えばイビサハウンドやファラオハウンドは太古から存在する犬であると思われていましたが、実はそうした種ではなく、比較的近代にブリーダーによってかけあわされて作られた犬だったことが明らかになったんです。しかし、更に驚くべき事がありました。現代では犬とされている何種かに至っては実際のところ、もはや犬ですらなかったんです。」」

で、チワワはイヌよりネズミに近いことがわかったというニュースである。

250以上のコメントと35以上のトラックバック。これらの書き込みを見ていくと、半数以上が元記事に納得していたように見える。(その後、ソースがパロディであると判明し、ブログ作者も訂正して大騒ぎ)。トンデモ仮説がブログコミュニティを見事にかき回した。

遺伝や進化の仕組みを思い出せば、こんなことはありえない、というのは今になって思うことだが、ちょっと読んだ段階では、私も、誰かに面白いトリビアを見つけたよ、と知らせそうになっていた。危ない危ない。

現代は専門家でないと分からないことだらけになっている。分野によってはごく少数の専門家が、少数の実験データから類推しただけの理論や、スポンサーからの資金獲得のために、数字の解釈をでっちあげた偽説もある。トンデモ科学は、学者が名声を得るために、自分の生きているうちには実験できないこと、反証が極めて難しい異説を、発表することで、生まれるケースもあるらしい。ノーベル賞受賞の理論も、歴史を調べてみると、後世にウソが判明したものもある。

チワワがネズミであるという仮説と同じようなトンデモ仮説が、私たちの常識の中にも含まれている可能性がある。あらゆる専門知識を勉強して、検証実験するわけにはいかないから、私たちができる最善の策は、この本のいう”トンデモ度”を常に意識しておくことだと思う。

科学読み物として面白い本だった。


スポンサード リンク

Posted by daiya at 2004年05月29日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
Daiya Hashimoto. Get yours at bighugelabs.com/flickr
Comments
Post a comment









Remember personal info?