2004年04月05日
宇宙人としての生き方―アストロバイオロジーへの招待
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■人類は最も繁栄している生物ではない?
宇宙人が地球を探査したとき、「この惑星を支配しているのは昆虫である」と結論する可能性があると何かの本で読んだことがある。動物種の中では昆虫の個体数が一番多く、生命として最も繁栄しているのは人間ではないからである。
ダーウィンの進化論以降、私たちは適者生存という考え方に支配されがちだが、何十億年間、ほとんど進化も絶滅もしていない生物もいる。バクテリアのような単細胞の原核生物は、30億年以上そのままの形を保持するものもいるらしい。生存環境の幅が広いため、とにかく生き残りやすい。生物としての繁栄という視点で見ると、高度に組織化、複雑化した高等動物が必ずしも、競争の勝者というわけではないことになる。
人類は増えて生き残るために生きているのではない、と考えた方がよいとこの本は言う。
人類とはそれではいったい何者で、どこへ向かおうとしているのだろうか?。それを天文学、地質学、物理学、歴史学、社会学などを総合して、大きなスケールから語ってみようというのがこの本の試み。
著者は東大の教授。
・東京大学大学院新領域創成科学研究科 松井研究室
http://ns.gaea.k.u-tokyo.ac.jp/~matsui-lab/
■地球(知求)学
ビッグバンによる宇宙の始まりからの150億年というスケールで、宇宙や地球、そして人類とは何か、を考えようとするのがこの本のメインテーマ「アスロトバイオロジー」であり、著者の言葉では知求学である。ビッグバン、地球の誕生、生物、人類の登場、そしてこらからをひとつのダイアグラムに描いてみせる。
なぜ人類は人口が増えて繁栄したのか?。大きな理由として、言語の存在と共に「おばあさん仮説」を著者は提唱している。生殖年齢を超えて生きる雌の個体、つまり、おばあさんは、自然状態の哺乳類では存在していない。人間にはこのおばあさんがいることで、お産の知識や育児の支援が可能になり、お産の回数や生存確率が飛躍的に高まった、とする説。
しかし増えたことで人間は自然のままにいきることはできなくなった。20世紀の人口増加率を続けると、2千数百年で地球の重さと人間の体重の総和が同じになってしまうそうだ。「生物圏」としてみた場合、10億人程度が地球の養える人類の数。それ以上は地球に何らかの影響(=汚染)を及ぼさずには生きることができない。既に60億人いる人口を支えるには、自らが環境自体を農耕に始まる技術と知恵で作り出す「人間圏」にしか、人間が生きていく場所はない。「自然にやさしい」「環境にやさしい」は、とんでもない誤解であると著者は述べている。そうではなく「人間にやさしい」を目指すしか選択の余地はないのだ。
■時間加速システムとしての人間圏
この人間圏の本質は時間の加速にあると著者は考えているようだ。例えば移動手段の発達により、鉱物資源は世界中にいきわたる。地殻変動による移動とは比較にならない速度である。遺伝子操作の技術は生命進化さえも加速する。
地球環境に与える影響という観点で見ると、20世紀の質量変化は、およそ地球の歴史の10万年分に相当すると見積もられている。人類は1万年生きてきたが、さらに1万年生きるとすると環境には10億年分の影響を与えてしまう。
この加速の根本には「右肩上がり」の進歩、拡大という共同幻想が存在しているのだという。人類は人間圏は成長していると現状を認識している。だが、宇宙人の視点で、人間圏をとらえなおした場合、この幻想では行き止まりが近いことが分かる。
■今考えるべき問題の存在と材料の提示
著者はいくつか面白い提案をしている。人間圏が環境に求めているのは「物」ではなく「機能」なのだから、所有するのではなく自然から借りる、レンタル思想というコンセプト。長寿命型文明と短寿命型文明という選択肢。未来に理想を求めるユートピア思想と、過去に求めるアルカディア思想。知的生命は環境を認識することができると同時に破壊もするという文明のパラドクス論。均質な世界から分化していく過程が歴史の本質とする分化論など。この大きな視野で考えるための素材を提供してくれる。
著者は決して明確な答えを書いてくれるわけではない。語られる内容も厳密に検証した科学でも、統合された哲学でもない。ただ、我々の生きる世界がより大きな階層システムに何重にも取り囲まれていて、本当の問題は上のスケールから考えないといけないという事実に気づかされる。政治や宗教で対立するよりも、世界全体で宇宙人としての行き方、行く末を考えるべきだというメッセージのような気がする。詳細がもっと読みたい。
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Posted by daiya at 2004年04月05日 23:59 | TrackBack
大変、興味深い本をご紹介いただきありがとうございました。トラックバックさせていただいた記事にまとめたように、暫く前から人間が地球に行き渡ってしまっているのだから、「地球意識」みたいのを研ぎ澄ましていかなければならないと感じておりました。なにか、自分の問題意識にとてもマッチした本のようです。さっそく、読んでみます。
Posted by: ひでき at 2004年04月07日 04:09