2004年03月15日

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競争戦略論〈1〉
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原著は1998年出版だが既に古典扱いの経営戦略書。著者は、最年少でハーバードビジネススクールの正教授の職に就き、40歳でフォーチュン誌の表紙を飾り、天才の名を欲しいままにするマイケル・E・ポーター。20年以上にわたり、企業の競争戦略を専門として、研究してきた成果の論文5本をまとめたのがこの競争戦略論1である。

■競争を支配する5つの要因

ポーターの競争戦略論を読むと、市場における企業間の競争のダイナミックさが良く分かる。絶対的な能力値によって強者、弱者が決まるのではなく、環境への柔軟な適応力こそ、競争の勝者を決めるものなのだということを再認識させられる。

業界内部の競争を支配する要因として、著者は次の5つの力を挙げている。

1 新規参入の脅威
2 顧客の交渉力
3 代替製品・サービスの脅威
4 供給業者の交渉力
5 既存の競合企業どうしのポジション争い

1〜4のパワーゲームの世界の中心で、5のポジション争いが戦われているとする構図がある。

ポーターの考えが、従来の経営論と異なるとすれば「コアコンピタンス」や「オペレーショナルエクセレンス(業務効率)」が勝負の鍵ではないとするところであろうか。ポーターは、「生産性のフロンティア」という理論を提唱している。競争市場において、企業が顧客に提供する価格以外の価値とそれを生むコストは、ぎりぎりまで最適化された状態になっていることが当たり前の前提なのだとする。

企業は同じ行動を繰り返せば、やがて学習し、最適の業務効率を達成する。特に現代では、情報化、IT化、労働市場の流動化によって、経営や生産のスキルやノウハウは急速に伝播する。多くの組織でベストプラクティスが達成され、ノウハウは陳腐化してしまう。Web広告やメールマーケティング、売れるECショップのデザイン、サーチエンジン最適化など、自分にとって身近な部分を見ても、その通りだなと思う。

私は90年代前半の学生時代に日米の経営戦略の比較をテーマとする国際会議に参加したことがある。まだバブルの時代であり、日本企業の優位性を、米国の学生たちは必死に学び取ろうとしていた。そんな会議に象徴されるように、日本の生産管理や業務改善の仕組みは、90年代に米国企業に模倣吸収され、市場において業務効率が最大になっていることが当然の強い経済が米国にできあがったのだと考えられる。

■トレードオフとフィット

企業固有の模倣できない持ち味である「コアコンピタンス」が重要視された時代もあった。今もそれが大切とする学者もいるが、ポーターは、勝敗を決めるのはトレードオフとフィットというふたつの要素だとする。

ある企業がある戦略を取れば、それを模倣する企業が現れる。では、真似できない戦略、維持可能な戦略とはなんだろうか。トレードオフとは、一方を増やしたければ、他方を減らさなければならない選択のことである。

例えばこのブログの戦略ならば、質を落としても毎日ブログを更新するか、質の高い記事を週に1回更新するか、といったトレードオフの選択肢が考えられる。ブログ業界は競争の激しい市場である。すべてのプレイヤーが頑張りと工夫で「生産性のフロンティア」を実現しているとする。手を抜けば、読者獲得競争から置いていかれる、としよう。この場合、私は他と差別化して生き残るために、選択肢のどちらかを選ぶことになる。

質か量に特化することで、どちらか一方を期待する読者セグメントに対してのみサービスを提供する。市場のポジショニングを明確化することになる。トレードオフの選択はリスクを伴うため、他のプレイヤーは容易に模倣する判断ができない。

こうしたトレードオフの戦略をいくつも実行する。すると、戦略同士の一貫性、相乗効果、戦略の組み合わせの最適化という「フィット」の要素が今度は大切となる。活動間のフィットは大幅なコスト削減と強力な差別化につながる。こうして「強固に絡み合った一連の活動」は対抗するのが困難で維持可能な戦略となる。

■教科書として必読か

この本には、他にも情報技術が競争に及ぼす影響や、戦略なき日本企業の分析、衰退産業における終盤戦略などのテーマの論文が収録されている。ポーターがこの本で語ったことはMBAの教科書的な基本理論である。新理論の本を読みこなすための基礎知識として、この戦略論は必読のような気がした。さすがに天才学者だけあって論旨が明快で、分かりやすい。

イノベーションのジレンマ」や「プロフィットゾーン経営戦略」が好きな人には特におすすめ。

#なお「競争戦略論2」は、別のテーマ、グローバル経済における地域の役割や立地の競争における重要性、国境を越えた競争などがテーマの論文集である。1だけでも完結する。


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Posted by daiya at 2004年03月15日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

マイケル.ポーターですか。
この人の『競争優位の戦略論』は、確か20〜25年前に発表された論文ですね。
私も、その当時、ゼミの副専攻科目として学習してました。懐かしさすら感じます。

Posted by: hamaZaki at 2004年03月18日 22:35

すみません、トラックバックしたのですがなんだかこちらの画面では文字化けしているようです。たいした内容ではないのでトラックバック外しておきます。

Posted by: 山辺響 at 2004年03月22日 08:03
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