2004年02月13日

IT時代の「仕事術」を考えるこのエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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「仕事術」系の書籍をまとめ読みして、要点を抽出し、考えたこと。
もう何冊か書評を続けてからと思いましたが、このネタ続けると疲れるので一旦総括。

■ふたつの効率が人間の情報処理能力を決めているという考え

人の情報処理能力=脳力というのは、身長や体重の分布と同じ正規分布を描くものではないと思っている。正規分布の世界。例えば体重50キロの人もいれば100キロの人もいる。身長1.5メートルの人もいれば2メートル超の人もいる。しかし、大半は平均値付近に集合していて、10トンの人も、5メートルの人もいない。

しかし、歴史を振り返ると、個人の知的成果は、正規分布を大きくはずれた人が目立つとも感じる。一人の人間が、驚異的な量の仕事をこなし、その巨人の肩の上で、次の時代が起こされていく。能力は平均の世界でも、成果はべき乗則の世界であり、ごく少数の巨人の影響力が大きいと感じる。

人間には生物構造的には、誰もが、ほとんど同じ1500グラムの脳を使うが、成果の大きな違いを生み出しているのが、「効率」の違いだと考えた。内燃機関のアナロジーを使うと、内的効率と外的効率のふたつがあるのではないかと仮定してみる。

■内的効率と外的効率:内燃機関のアナロジーから

(1)内的効率 アタマの中の効率

脳の思考に必要な物質的燃料は少量だから、この際無視するとして、勢いよく燃焼を続けるには、いくつか他の燃料が必要であると思う。

1 蓄積し分類網化された知識群(データ、情報、知識、知恵、量→質の変化性
質)
2 記憶術、発想術、構成術、再生産術など思考のノウハウ
3 自己効力感(やる気)、習慣化、儀式化された身体性のノウハウ

など。

1については、現在までの知識の蓄積の状況なので、「仕事術」のアプローチは2や3の工夫ということになるのではないかと思う。

発想術、情報活用術、創造学の多くは、2のテーマについて扱っている。アイデアの出し方、まとめ方、表現の仕方など。

・発想の刺激を作り出す(考え方やツールを使って)
・メモする(ポストイット、3色ボールペンなど)
・要約する
・ブックマークする
・記憶する
・文書化(一枚企画書など)
・プレゼンの仕方

収集した情報や考えたことを何らかの(中間)アウトプットとして表出せよというのが、この手の本の大意であると思った。アウトプットを残すことで、自分や他人が、それに刺激を受けたり、再利用することで生産性が高まるという考え方だ。私は自論でこれらを「情報サブアセンブリ」の技術と定義してみた。(過去記事参照)

これに対して、時間管理や生産管理系のマネージャー本、心得本は、3についての本である。時間をうまく使え、早起きせよ、ポジティブ思考でいけ、など。こちらでは、重要なのは、モチベーションであり、その向かう先は「ベストプラクティス行動の習慣化」ということかなと考えた。

例えば目新しいブレインストーミングの方法を使って、特定の仕事の特定の行動だけを強化するより、日々の行動のやる気を起こさせ、習慣としてルーチンワークに取り込む改善の方が、個人やチームの生産性に大きく寄与する。生産性向上の取り組みを一時的な実験、三日坊主に終わらせない着床の技術こそ重要だと思う。

そして内的効率を高めただけでは不足であり、次に外的効率が重要であると考えました。

(2)外的効率 他者から見た効率

勢いよくエンジンを燃やし、車軸を回転させることができても、組織の歯車、社会の歯車とつながりを持ち、軸の向き合いや歯の数がマッチしていなければ、アウトプットがでない。

社会的評価軸で評価されるもの、自己または他者の知識と相乗するものを生み出さないと、仕事をしたことにならない、ということであり、再利用することのできる粒度の揃ったアウトプットでなければ、知識の再生産の螺旋プロセス(SCEI、野中)を上手に向上させることにつながらない、ということであろう。

自分的には頑張ったし、膨大なアウトプットも出したのだけれど、要件を満たしていなかった、だとか、報告や連絡などコミュニケーション上の問題により、成果が過小評価されてしまったという失敗は、外的効率の失敗だと思う。

■アウトプットとモチベーション、ITによる支援の位置づけ

内外ふたつの効率をベン図で書くと、中央で重なる領域に、「アウトプット」という要素が浮かぶ。内的効率の上ではアウトプットは、情報のサブアセンブリなのであり、外的効率の上では、社会的評価の対象となる、移転応用可能な形式知である、と考えた。

・アウトプット、サブアセンブリ、非マルコフ、Blogの流行の秘密
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000529.html

ふたつの種類のアウトプットを生産するための、燃料もしくは円滑油として、情動があり、ビジネス一般世界でいうところの「モチベーション」なのだと思う。仕事もプロジェクトも、知だけでなく「血」の通った人間が通過点のひとつとして参加する交差点みたいなもの。そこには、さまざまな思いが交錯する。その情動の物語を、いかにドラマティックに演出できるか、が仕事術の語るテーマなのではないか、と思った。

読んだ本の多くはアナログ系の話が多かったが、ITは、このアウトプットとモチベーションの原理を働かせる新しいタイプの刺激と道具をたくさん備えていると考える。

それは検索性の高さであったり、膨大な情報量のストレージであったり、情報蓄積から相関や法則を簡単に発見するアルゴリズムのこと。あるいは、情報モニタリングを精神的、肉体的な負荷ゼロで実現する情報システム(アラート型監視システムやエージェントソフトウェア)であったり、時空を超えて他者とコラボレーションを行うコミュニケーション機能であったりする、と考える。

ネットワークやコミュニティを駆使した新しいタイプの仕事術は、まだツール紹介にとどまりがちで、体系化されていないと思う。10年経過してもまだ役立つようなデジタルのノウハウのある仕事術本を探しているけれどみつかっていない。

何か良い本があったら教えてください。

#ここから宣伝。

私の会社が企業研修として展開している情報活用術セミナーは上記の考え方のもとに構成しています。全体を通して言いたいのは、完璧でなくとも中間部品のアウトプットを量産する習慣の有効性と、情報探索プロセスを情動の物語ととらえ、それを促進する支援ツールとしてのソフトウェアを使うといいのではないか?ということ。お問い合わせは橋本までぜひ。


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Posted by daiya at 2004年02月13日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

あれれ、橋本さん、「能力は平均の世界でも、成果はべき乗則の世界であり、ごく少数の巨人の影響力が大きいと感じる。」の前半2センテンスは大賛成ですが、「ごく少数の巨人の影響力が大きい」はどうでしょう。

冪乗則が我々に伝えるメッセージは、臨界状態にあるシステムでは砂粒ほどに没個性で平均的な人々が「たまたま」システム全体に及ぶほど大きな影響を与えうるというシステム自体の感受性についてであって、むしろ「偉人論」の否定ではなかったでしょうか。

私も冪乗則には衝撃を受けたクチですが、例えばHumanityはメタレベルでは無力であるということなどを冷酷に物語るという過激さゆえ、実社会で用いるには慎重な方がいいかも知れませんね。

ちなみに正規分布は正規分布でやはり突出した例外もあるわけで、安定したシステムとしての味わいどころは掘れば沢山あると思いますよ。

以上、枝葉末節なコメントでした。

Posted by: kenn at 2004年02月15日 15:38
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