2003年12月25日

言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすかこのエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか
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■言語の獲得と脳

もうすぐ5ヶ月になる息子は、国会の証人喚問風に「橋本○○君」と名前を棒読み口調で呼びかけると微笑む。普通にあやしても中々笑わないのに不思議。彼が言葉を話すようになるのは子育ての本によると生後12ヶ月くらい、らしいので、まだ言葉の内容を理解できているわけではないはずである。

自分が日本語をどう覚えたかの記憶はない。英語のように文法から憶えた記憶ももちろんない。ウチのこどもも脳の成長に伴い近日のどこかで、言語を獲得していくはずで、毎日小さな変化の観察に興味は尽きない。

この本は、人間の脳が言語をどのように獲得し、使っているかの先端的な情報を一般向けに分かりやすく教えてくれる入門書。計測装置の進歩により、人が物事を考えたり、話したりするとき、脳のどの活性化する部位を計測することができるようになった。しかし、言語と脳の関係はまるで解明されていない。分かっていないからこそ、この分野は熱い議論が交わされている。

この本ではチョムスキーの生成文法論を中心に言語と脳の深いつながりが解明されていく。生成文法理論では、人間の脳には生まれつき、文法を処理する機構が備わっているとされる。言語は学習によって後天的に身につけるものとする、従来型の言語理論とは異なる。興味深い多数の実験結果の報告から、「普遍文法」の存在が裏づけられていく。

■生成文法論とコンピュータ応用

近年チョムスキーの生成文法論が人気があるのは、コンピュータの普及と関係があるのではないかと私は考えている。主語はS、動詞はV、目的語はOと、記号化する。例えば、日本語の構文は通常の文章(平叙文)ではSOVである。英語、中国語はSVOである。この本によると、ウェールズ語はVSO、マダガスカル語ではVOS。理論的に組み合わせは6パターンが考えられるが、OSVになる言語は発見されていないそうだ。

記号化された言語の構造モデルを、いろいろなルールで構造変換することで、言葉のバリエーションが生まれる。例外だらけの自然言語という考えと違って、コンピュータで扱いやすい理論であり。今日のコンピュータによる言語処理や意味解析の研究に大きな影響を与えていると言われる。

以前プレゼンテーションを見せてもらったソフトに三菱総研のKnowledgistがある。これは、英語文書の構文を解析しS、V、Oのモデルを抽出した後、「やりたいこと→実現方法」を発見できるという野心的なソフトである。

同社の解説では、


自然言語処理技術を長年研究してきた米国インベンションマシン社が、「科学技術に関する文書では、述語と目的語の組み合わせが「やりたいこと=問題」を、主語が「その実現方法(解決策)」を意味しており、技術分野のコンセプトはこの形式で表現できる。」ことを発見したことがベースになっています。」

とのことだ。こういったソフトウェアはチョムスキー的アプローチのビジネス応用と言えそうだ。

・Knowledgist
http://www.internetclub.ne.jp/IM/products/knowledgist.html

#チョムスキーは同時に政治的活動を派手に展開していることも人気の秘密なのかも。

■ブレインーマシンインタフェース

もうひとつの本書のテーマの脳科学。脳の信号を使って機械を操作するハードウェアも既に市場に出ている。

・CyberLink
http://www.brainfingers.com/
脳波、眼球運動、筋肉の動きなどを使ってコンピュータを制御するシステム

・脳内の電気信号によるコンピューター制御へ
http://slashdot.jp/articles/03/11/15/1128201.shtml?topic=70

脳の指示を機械へ伝えるBrain->Machineインタフェースは研究レベルのものが多数みつかるが、逆に機械から脳へ直接に情報を伝えるMachine->Brainインタフェースは少ない気がする。倫理的に問題が大きい。技術的にも脳科学の進歩が追いついていない。そういった課題が山積みだと思うけれど、大容量の記憶装置や、数値計算、辞書検索、翻訳などのモジュールを脳から直接利用できれば、随分、生活や人生は変わりそうだ。

いわゆるサイバネティクスの研究がそれに当ると、言えそうである。以前書いた記事にこんなのがあった。脳に機械が言語的な指示を与えて身体を動かす生物ロボット。

・ゴキブリは電脳ウナギの夢を見るか?
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20030523-01.htm

ここでも紹介したが、今年見たショッキングなページに、ゴキブリの脳に電極を取り付けて、行動をコントロールする実験の紹介がある。虫とは言え、倫理的にどうなのか議論の余地はありそうだが。

・Robo-Roach(人によってはショック画像あり。虫嫌いの人はクリック前に注意。私もあんまり見たくない(笑))
http://www.wireheading.com/roboroach/robo-roaches.html

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余談であるが、URLの先に見たくないグロテスクな画像があることが想定される場合に、便利なコミュニティがある。この2ちゃんねるのスレッドにURLの確認依頼を出すと有志が実際に画像の内容を確認して報告してくれるのだ。Part496ということは過去に49万件以上の書き込みがあった大盛況のスレッドのようだ。

・勇気が無くて見られない画像解説スレPart496
http://ex.2ch.net/test/read.cgi/entrance/1072323640/
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■チョムスキー一辺倒だけれど
著者はチョムスキーの生成文法理論の信奉者で、言語学を語る際に少々態度の偏りがあるように思える。そのかわりに、本書は、分かりやすい一本の筋が通っていると言える。著者は、後で全面否定するものの、必ず一度は対立する意見も紹介している。一般書なので、並列で異なる意見を紹介し読者に判断を任せるより、私はこう考えているのだという専門家の強い語り口で、論を進める戦略は成功しているように感じた。

紹介される臨床例、実験例は特に興味深い。一週間置きに、片方の言語が失語症になるバイリンガル患者がいるだとか、一見読めそうだが無意味な文字列を見ると脳は無意識に反応してしまう、ジャヴァウォッキー文の事例などわくわくした。

評価:★★★☆☆


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Posted by daiya at 2003年12月25日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

確かにチョムスキー一辺倒なのはどうかと思うけど、この人の授業はすごくうまかったです。最近、COEプログラムで認知言語学的アプローチの人との交流もあるみたいですけど、スタンスに何か影響あるのかな。

Posted by: Ken at 2003年12月26日 12:18

FPNのsugimotoです。こちらではお初です。

うちも娘が1歳頃、言葉を話し始めたときには驚きました。というのは、それまで理解さえしていなかったはずのことを覚えている!という風に思えることが多かったからです。「話す」のは1歳頃でも「理解」し始めるのはもっともっと早い段階なんだと思います。

今のうちにいろいろと話しかけて刷り込んで(何を?笑)おくといいかもしれませんね。橋本さんのことですから、当然そうしたことはいろいろ試されているように思いますが(笑)


Posted by: sugimoto at 2003年12月27日 18:29

何か、2回起きないようなことや言葉を認知させて1年後に想起させる実験がよさそうとおもい、実験を設計中です。

例えば

1 1週間毎日「アリャマタコリャマタ」という言葉を耳元でささやき、1年間はその言葉を使わない。

2 1年後「アリャマタ?」と聞いて「コリャマタ」と答えるかどうかのテスト

とかですかねえ。記憶の諸バイアスをどう排除して純粋な実験結果を得るかが課題だなあと。

予定被験者寝てますが。。。

Posted by: daiya at 2003年12月31日 14:55