2003年12月15日

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インタフェースの計量化、その1 KLM手法

私も師走は人並みに忙しいので今日と明日は一度に書いた続き物で...。

「ユーザビリティ」という言葉が流行っている。このソフトはユーザビリティが高いから便利だ、とか、ユーザビリティが低くて使いにくい、などと言う。ユーザビリティ設計は、グラフィックデザインと同じように、設計者の感性や経験に依存する、主観的な技と思われがちだ。

例えば代表的なワープロソフトのMS Wordと一太郎のどちらがユーザビリティが高いか?という質問に、明確な基準で答えられる人は少ない。大抵、返ってくる答えは、この機能があるから、だとか、分かりやすいから、といったことになる。

ユーザインタフェースの便利さを数値化、計量化する方法は、一部の研究者にしか知られていない、と思う。今日はユーザビリティを計量化し、あるアプリケーションの操作を点数で評価できる仕組みで、古典的な計算方法を幾つか紹介したい。

■キーストロークモデル(GOMS KeystrokeーLevel Model)

GOMSはGoal(目標)、Operator(オペレータ)、Method(メソッド)、Selection Rules(選択規則)の頭文字をとったユーザビリティ評価モデルの大きな体系で、そのメソッドのひとつにKLM(キーボードストロークモデル)がある。アプリケーションに入力のイベントが発生したときに(メニューを選ばせるなど)、ユーザの入力のタスクを分割し、単位当たりの所要時間を、足し算して、理論的に考えれれる最短時間にいかに近いかで、ユーザビリティを評価する方法だ。

・Using the Keystroke-Level Model to Estimate Execution Times
ftp://www.eecs.umich.edu/people/kieras/GOMS/KLM.pdf

一般にKLMでは次のようなタスクの切り分けと数値が使われる。(数値はアプリケーションの複雑さやユーザ層の性質により変動してよい)。

T(N)=0.28n秒キー入力(非熟練ユーザのキーボード入力、1文字当たり)
P=1.1秒ポインティング(ディスプレイ上の位置をユーザが指示)
B=0.1秒マウスボタンをはなす
BB=0.2秒マウスクリック
H=0.4マウスからキーボードへ手を移動する時間(または逆)
M=1.35秒心理的準備時間(各プロセスの直前に発生)
W応答時間(コンピュータの応答にかかる時間)

■KLMを試す

例えば、こんなアプリケーションのウィンドウがあるとすると、

KLMdefault01.JPG

ユーザに年齢(2桁)を入力させてOKを入力させると0.1秒の処理時間で次の画面で「あなたの生年は○○年です」という情報が表示されるものとする。

ユーザの動きを文章で表現するとこうなる。「ユーザはマウスに手を置き(H)、カーソルを入力欄へポインティングし(P)、キーボードへ手を移動し(H)、年齢2桁を入力し(T)、マウスへ手を移動し(H)、OKボタンをポインティングし(P)、押す(B)。処理時間(W)後に、生まれた年が表示される)。」

KLMの式で表記するとこうだ。

H→P→H→T(2)→H→B→W

KLMのルール(論文参照のこと)では、すべてのキー入力(T)とクリック(B)の前には心理的準備時間(M)を挿入せよというルールがあるので適用すると、

H→M→P→H→M→T(2)→H→M→P→BB→W
0.4+1.35+1.1+0.4+1.35+0.28+0.28+0.4+1.1+1.35+0.2+0.1=8.31秒

となる。上記の変数に具体的な処理時間の数字を代入して計算すると、8.31秒が理論上の最短処理時間となる。実際にユーザに使わせたときの平均処理時間と比較して、8.31秒をはるかに上回る数字が出ていた場合、そのインタフェースは改善の余地がある。

では、上記のようなアプリケーションはどう改善できるだろうか。2案考えてみる。

A案は、年齢の入力を選択式にしたもの。キーボードを使わずにマウスで選択できるので便利に見える。年齢の欄はユーザ層の平均である30歳をデフォルト入力値として設定しておく。

KLM_model_a0.JPG

B案は、キーボードからの入力のみにしたもの。ウィンドウ表示と同時に入力カーソルは年齢入力欄に自動的にフォーカスされており、年齢を入力すると同時に生年が表示される。

KLM_modelb.JPG

A案では、KLMの計算では、最初のモデルと異なるのは数字の入力だけである。選択式でふたつの数を選ぶには、「マウスでボタンをひとつめの数字を選んで離し、ふたつめの数字を選んでボタンを離す」。二つの数値入力の間のMは連続的行為なのでKLMルールにより省略する。

よって、A案は、

・A案のKLM
H→M→P→BB→B→P→BB→B→H→M→P→BB→W
0.4+1.35+1.1+0.2+0.1+1.1+0.2+0.1+0.4+1.35+1.1+0.2+0.1=7.7秒

となり、KLMの評価では最初のモデルの8.31秒よりも若干速くなった。

B案ではどうだろうか。こちらでは自動フォーカスとリアルタイム計算結果表示により、ユーザは「キーボードへ手を移動し、数値を二桁入力する」だけである。今度は8.31秒を大幅に短縮した。

・B案のKLM
H→M→T(2)+W
0.4+1.35+(0.28+0.28)+0.1=2.41秒

この結果から分かることは、KLMによる分析では、A案の「マウスだけで入力させるからユーザの入力作業も簡単で早いだろう」という思想は軽度の改良にとどまり、B案がコンセプトとして優れていると言える。(飽くまでこの部分だけを取り出してみればという話であるが)

B案を選択したなら、実際にユーザに使わせ、理論値2.41秒にどの程度近いかを計測する。そして、まだかなり理論値よりも長い数字が判明すれば、別のKLMシナリオを考案し、理論値を計算して実装する。この繰り返しがKLMアプローチだ。

■インタフェースの計量アプローチのメリットデメリット

ここでは、極めてシンプルなアプリケーションの操作で説明したが、実際のアプリケーションはさらに複雑である。直感的にどちらが便利だとか、分からないことが多い。KLMモデルのアプローチは、厳密に数字でユーザビリティを分析できる。

無論、インタフェースデザインについては、「全体は部分の総和ではない」というゲシュタルト概念としてとらえていくべきなのだろうとは思う。計量化がすべてではなく、設計者の感性や経験によるところも大きいはずだ。だが、それだけでは、思いついたアイデアの実装を加えていくだけで、やがてインタフェースは複雑になってしまうことが多い。

今、一般に使いにくいとされているアプリケーションも、大抵は、統一性なく、インタフェースデザイナーの創意工夫を集めすぎたことで、複雑化し、使いにくくなってしまったのだと思っている。計量化という、いわゆる「定石」を知り、どういう方向にあるのか、を知った上で、デザイナーの個性を加えていくのが正解なのではないか、と思う。

参考:
・プルダウンを格段に選びやすく プルダウンって使いにくい?
http://allabout.co.jp/career/html/closeup/CU20030629A/

明日も続けて、インタフェースの計量化手法について続けます。


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Posted by daiya at 2003年12月15日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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