2003年11月30日
アウトプット、サブアセンブリ、非マルコフ、Blogの流行の秘密
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■知識のサブアセンブリ化と知的作業の効率
何かを考えてそれをアウトプットにする。このBlogもそんな作業のひとつであるが、個人の情報処理プロセスで重要なものとはなんだろうか。考えてみた。
先日、ノーベル賞学者のハーバート・サイモンの著書を読んでこんな記事を日経BPの連載で書いてみた。一般システム論のいうサブアセンブリについて、知識のサブアセンブリとして再発想してみた。
・知識のサブアセンブリ
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20031118-01.htm
大雑把に自分で要約をかけると、「知識を再利用できる中間部品(サブアセンブリ)でたくさん持っておくと、効果的なアウトプットを出しやすくなる」という当たり前な話である。具体的には、サブアセンブリを作り、活用するには、以下のような作業をすることになるだろう。
・サブアセンブリ化の作業
文書化しておく
要約しておく
表や図にしておく
断片をメモに残しておく
・効果を高めるための作業
共有、再利用しやすくしておく
すぐに取り出せるようにしておく
概要を記憶しておく
■アウトプット表出するか、しないかは天地の差
作るものが最終アウトプットとしての文書であれ、中間部品としての知識サブアセンブリであれ、アウトプットとして表出するか、しないかは結果に大きな影響を与える。頭で考えたことがあるだけなのと、メモや文書にまで仕上げたことでは、その結果に天地の差がある。
企画書でも論文でもメールでも、何かアウトプットを作成しようとするときに、私たちは、何度も、考えをまとめたり、調べたりする。次のプロセスへ進むか止めるかの判断を繰り返していることになる。もし、思考を途中で止めてしまうと、アウトプットは作られない。(図参照)。
当然のことだが、
・提案されなかった企画は発注されない
・発表されなかった論文は評価されない
・書かれなかったメールは反応が返ってこない
わけだから、以下の図の、赤のライン、アウトプットとして表出するラインを超えるまで、思考プロセスを持続することが重要と言える。「やめる」で放棄してしまうと忘却されてしまう可能性が高い。
では、このワークフローの赤のラインを超えやすくするにはどんな要素が関係しているかを考えてみる。
■ナレッジベースの充実度=知識サブアセンブリの蓄積量
ナレッジベースとは、知識や情報の集積である。実体は、ポストイットを貼り付けたスクラップ帳であったり、データベースやイントラネット掲示板、メールフォルダやブックマークであったりする。純粋に脳の中にしかない、という人も多いだろう。(私が提案するパーソナルナレッジベースは過去記事参照)。
ナレッジベースの質を決める大きな要素は、そこに蓄積される、サブアセンブリの量と質である。
私の定義では、テンプレートと知識サブアセンブリは異なる。テンプレートは器である。これに対して、知識のサブアセンブリは、もっと相対的に強く文脈に依存したものを私は意図している。数学で言うならば、公理や定理ではなく、実際の数字の入った式のことである。統計白書に書かれている全体の傾向ではなく、新聞の記事になるような、ある町で起きたある特徴的な事件のことである。
文脈に依存した知識には次のような特徴があると考えている。一般的な企業で個人や組織がビジネス用途に活用するという条件を想定している。
・記憶から想起しやすい
人間の記憶の特性から、細部の記憶があるほど想起しやすいことが以前紹介した本にも書かれている。
・同じ仕事では使いまわしがしやすい
人や会社は、職業や社会的役割を演じ続ける限り、同じような問題に繰り返し遭遇し、同じような知識を必要とすることが多いはずである。
・意味を汲み取りやすい
「こういった仕組みは7割の確立で失敗する。」(テンプレート)
「A社、B社、C社はこういう仕組みで何年度に失敗し何億の損失を出し
た」(サブアセンブリ)
ふたつの形式知識を並べてみると、後者のほうが、意味を汲み取りやすいだろうし、経験のあるビジネスマンならば一般化も容易なはずだ。逆に前者はミスリーディング知識になる可能性がある。
こうしたサブアセンブリを整理しておくことが、アウトプットの赤のラインを超える確率を高めるひとつめの要素と考える。他には思い入れと心理ハードルが関係する。
■思い入れを強める、心理ハードルを下げる
マラソンで息が切れてしまった。体力はぎりぎりだ。さあ、どうしよう?。そんな状況での判断は、現在自分が走っている位置や過去の苦労の量によって大きく左右されるものと思う。走り出して5キロならば棄権することが多いだろうし、40キロまで来ていれば、無理してでもゴールまで走るだろう。
過去に同じことをやりとげた経験も意思決定に関わる。過去の経験からくる自信や蓄積したノウハウは、続けようとする心理ハードルを下げていく。また、既に終盤にいて、途中で何度も、そんな判断を乗り越えてきたのであれば、なおさら、あと一息で完走の判断を下すはずだ。
知識の表出もマラソンに似たところがある。過去の判断の積み重ねの記憶とゴールの近さは、アウトプット実現の可能性を高めていると思う。つまり、次のような思い入れと心理ハードル効果が働くからである。
1 ゴールが見えていて、もう少しで完遂できそうだ
2 過去の経験や知識を使って容易にできそうに思える
3 ここまでの苦労は長かった。諦めたくない。
■知的作業は非マルコフ過程
物理学の概念でマルコフ過程という考え方がある。過去の選択が未来に影響しないプロセスのことを言う。例えば、毎回違う人とじゃんけんをするシーンを思い浮かべてみる。同じ人とじゃんけんをするのと違って、毎回の指し手は、同一人物のクセから学ぶことができないので、何を出すかは過去の経験に依存していない。これがマルコフ過程である。
逆に同一人物と連続してのじゃんけんは、相手の手の内を読めるようになってくるから、指し手の意思決定に経験が影響し始める。将棋や囲碁のように、前の手が次の手に影響する場合はなおさらこの傾向は強くなる。これが非マルコフ過程である。
人間の知的作業は、一見、マルコフ過程のように見えることはあっても、実質は非マルコフ過程のはずである。それ以前のプロセスが、思い入れの強さや、作業を容易にする知識サブアセンブリを準備している。
従来のITの知的作業支援ツールは、人間の思考をマルコフ過程と捉えてしまった設計が多いように思われる。何度も最初から入力しなければならなかったり、過去の努力が再利用しにくかったり、今やっている作業が、あとどれくらいで終わるのか、全体の作業量が見えにくかったりする。
■知識ツールに求められるもの、情報ブリコラージュの技術
こうした仮定の知的作業を支援する知識ツールに必要な要素が分かってくる。
・サブアセンブリが自然に作られやすいこと
情報収集した内容が低い入力コストで蓄積できる
・蓄積したサブアセンブリを容易に検索できること
全文検索、概念検索、俯瞰と部分注視の機能があること
・思考プロセスの心理ハードルを下げること
簡単にできそうだ、あと一歩で終わりそうだという示唆
・アウトプットが見えやすいこと
WYSIWYG(What You See Is What You Get)的ツールは適している
・思い入れの強化
今までこれだけがんばってきたじゃないか俺、という念を強める
このBlogでも紹介してきた、Wiki、はてなアンテナ、関心空間、Weblog、紙といったツールは、これらの条件を少し多めに満たしているように思われる。だから、昨今、Blogは流行しているのだとも思う。単に日記アプリが流行しているなあと思って終わらせるのではなく、情報アプリケーション設計者は、この成功例から学ぶことが多いはずである。
手持ちのツールと知識で手早く目的を達成する知的作業のことを私は以前の記事で、情報ブリコラージュと定義した。サブアセンブリとブリコラージュは密接な関係にあるとも考えている。ITツールを使って知的作業を進める上で、デジタルならではの非マルコフ的な人間思考の支援を考えていくべきなのではないか。
・情報ブリコラージュの時代
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20031007-01.htm
#今日の記事は、伝播型流通貨幣PICSYプロジェクトの鈴木さん、コミュニティアライアンス戦略の佐々木さん、コミュニティエンジンCEOの中嶋さんとの対話から刺激を受けて書きました。サブアセンブリの結晶化と発想拡大を助けれくれる皆さんに感謝。
#毎日書くために、気をつけていること:
・頭の中で文章になるまで諦めずに考えてから、考えるのをやめる。
・考えた文章はとにかくメモする
・本を読んだら必ず要約する
を徹底することが私の今の課題です。文章化やメモ化する以前でやめてしまう思考はほとんどムダになるので、とにかく表出し、デジタル化と検索可能化もしておくといいなあと思っています。自分自身の情報術?らしきものから、企業のナレッジマネジメントへと応用できる理論を模索している中、今日の記事を考えましたが、うーん、まだまとまってないなあ。ご意見求む。
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Posted by daiya at 2003年11月30日 23:59 | TrackBack
サブアッセンブリーを多く作る方法として、音声ファイルを利用するというのはどうでしょうか。
文書を書くより早く表出できるからです。ただし、まとまりの良さは文章の方がよいとは思いますが。