2003年11月21日
それは「情報」ではない
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・それは「情報」ではない。―無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン
情報デザインの世界で著名なリチャード・S・ワーマンの代表作。独自の情報哲学を提唱し、あらゆる情報をデザインしては世界をアッと言わせてきた、Information Architect(情報建築家)の先端を走る人物。
ワーマンは情報を構造化する方法は5つしかないと定義している。5つは頭文字をとってLATCHと呼ぶ。位置、アルファベット、時間、カテゴリ、階層。あらゆる情報はこの5つとその派生形の構造化手法で説明、分類できるという。
LATCH | ||
Location | 位置 | 地図として表現 |
Alphabet | アルファベット | 順番、順序で表現 |
Time | 時間 | 時間軸で表現 |
Category | 分野 | カテゴリで表現 |
Hierarchy | 階層 | 程度で表現 |
確かにこの5つで表現できない情報は探すのが難しい。地図ならば位置だし、電話帳はアルファベットだし、スケジュール帳は時間、YAHOO!は分野、通知表なら階層である。それだけでは意味がないデータの集積を、5つの手法を駆使して、理解に結びつける形にする。データと情報は別次元であり、理解できないものは「それは情報ではない」のだ。
ワーマンはこの方法論で、カリフォルニア州のイエローページを再デザインした。2300以上ある職業別分類の見出し名を、より大きなレベルで少数の、利用者視点のカテゴリへ統合し、「目的検索ページ」を追加した。電話帳の形(データ)は変えずに、検索方法を整理するだけで、飛躍的に便利になった。その結果、ワーマンは世界中の電話帳のデザインを依頼されるようになり、次々に新しいアイデアを考えている。この本にも多数事例が紹介されている。
ところで、この本の目次や構成はさぞや整理されているのかと思いきや、まったく逆である。雑然としている。アジアの中華街みたいだ。うまい店がカオスでありながら最適化された配置で並んでいる感じがする。一章ごとに前章と連続しないテーマが、一見脈絡なく並べられ、すべてのページの下部には注釈として長い関連情報が大量に書かれていたりする。何ページおきかに挟まれるコラムやビジュアル資料も、本文を説明して収束させるのではなく、そこからつながる情報へと拡散させていくように仕向けられている。計算された雑然さが、心地よい。発想を刺激される。
私は最初から最後まで順番に読んだが、好きなところから読むほうが正解の本なのかもしれない。パラパラめくったページに書いてある参考文献やURLが、のぞいてみると深い底なし沼だったりする(経験者は語る)。骨の髄までしゃぶれる本なのだ。私は全部読了したけれどもまだ全部読めていない気がしている。
ワーマンはインターネットにも意欲的だ。彼の監修した代表的なWebサイトには、Understanding USAがある。オンラインと書籍が連動した作品。米国の政治や経済や社会の複雑な事象を一目瞭然で理解させるというコンセプトに結集した、一流の情報デザイナーが彼の指揮のもとで作り上げた情報ビジュアライズの見本市。このサイトは、書籍と同じ350ページすべてがダウンロードできる上に、著作権がない、そうだ。複製して配って構わないらしい。米国の統計情報を企画資料に使いたい場合などにも使えるわけだ。
・Understanding USA
http://www.understandingusa.com/
ワーマンは意図的に著作権フリーの戦略を取ったことも解説している。コピーが出回っても、350ページ印刷するよりは、25ドルの本を購入した方が安上がりだし、宣伝効果と高い評価につながるというわけだ。ネットでの情報伝播の特性やノウハウもこの本には重要なことが、書かれていて参考になる。
誰か意欲的な日本人デザイナーさん、同じライセンスで、「Understanding Japan」を作ってくださいませんか?。
この本に出てきたか関連する無数のURLのうち面白かったURLを5つ。
・テキストを三次元で表示するMITのベンジャミンフライ
http://acg.media.mit.edu/people/fry/valence/
・ライターのための情報リソース
http://www.writerswrite.com/
・斬新な工業デザインの会社FrogDesign 見るだけで楽しい(IDEOのようだ)
http://www.frogdesign.com/index.html
・ワーマンが主催するテクノロジー、エンタテイメント、デザイン会議
http://www.tedmed.com/
・ワーマン自身のオフィシャルサイト
http://www.wurman.com/
評価は高い。ワーマンは情報を押し付けるのではなく、読者の創造性を刺激して各自なりの情報哲学を持て、とメッセージを送っていると感じる。そういった意味では長い付き合いのできる、私の情報デザインのバイブルと言える。
評価:★★★★☆
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Posted by daiya at 2003年11月21日 23:59 | TrackBack
2年ほど前に読みましたが、今でも強く印象に残っています。「全部読了したけれどもまだ全部読めていない気がしている」という感覚には納得です。
紹介されていた "Understanding USA" もつい気になって Amazon でとりよせちゃいました。内容も期待以上で「わ〜、そんな見せ方もあるんだ〜」と感心しきり。25ドルは決して高くないと思います。
#こちらこそ全部は読めていませんが。(^^;