2003年10月21日

記憶のマジックナンバー7±2とドメイン名の考え方このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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「マジックナンバー7±2」という言葉をどこかで聞いた経験がないだろうか。何かを記憶するときに5個から9個の要素ならば記憶にとどめやすいという意味である。情報をデザインする際にはメニューの項目数を、その範囲に収めよう、などと企画書や会議で、引用されたりする。

この説の原典は、心理学者George Millerが1956年にThe Psychological Reviewに発表した、この論文にある。

・The Magical Number Seven, Plus or Minus Two:
Some Limits on Our Capacity for Processing Information(原文)
http://www.well.com/user/smalin/miller.html

「魔法の数7±2:我々の情報処理能力の幾つかの限界」。この研究では、ランダムな数字の並びを被験者に記憶させ、後に正確に反復できるかを見ることで、どの程度の情報量を人は一度に記憶できるのかを繰り返し試験した。その結果、このマジックナンバーが判明するわけだが、実はもう少し話は先がある。

被験者は、10桁の数字を覚えるときに必ずしも10個の要素を覚えるわけではなかったのだ。記憶できる要素の最低単位は情報学の世界では「チャンク」と呼ばれる。マジックナンバーは正確には数字の数ではなくてチャンクの数について述べている。

例えば、ランダムな文字列「8478502165」という数列は記憶しにくいが、これがもしパターンを持つ「8886677777」だったら記憶しやすいだろう。語呂合わせという手もある。5の平方根「2.2360679」は、「富士山麓にオウム鳴く」と記憶した方が容易だ。

なぜかといえば、

「8478502165」なら、10個の数なのでチャンク数は10
「8886677777」なら888 66 7777と3つの数として記憶できるからチャンク数は3
「2.2360679」なら「富士山麓、オウム、鳴く」でチャンク数は3

ということになるからだ。パターンのグルーピングや言葉のイメージ化によって、長い情報の部分を記号化する刺激を与えることで、チャンク数を減らしていけば、人間はもっとたくさんの要素数からなる情報を記憶できる。この実験でも、0と1からなる18桁の2進数「101000100111001110」を桁数の少ない10進数に変換することで、4か5チャンク程度まで圧縮して記憶できることが検証されている。また、以前読んだ本では、円周率の暗記の世界チャンピオンも語呂合わせで記憶していると書かれていたが、これもチャンク数を減らす努力だろう。

・参考:周期表の覚え方
http://www.d2.dion.ne.jp/~hmurata/goro.html

さて、この古典理論を持ち出して何を展開したいかというと、私は今、以下のサイトでWebドメインのマーケティングについて連載を持っている。ここでネタとして考えていることをこのBlogでも議論してみたいのだ。

・Webドメインマーケティング
http://webdomainmarketing.jp/
index_img_04.jpg

Webドメイン名は、短くて覚えやすいほどよいと言われるが、必ずしも短い=覚えやすいではないのではないかということだ。ドメインとして理想的なのは3チャンクのドメインであろう。例えばこのサイトのドメインは、

www.ringolab.com
-1- -2- -3-

だったら、3チャンクだ。www.社名や一般名詞(一語)+.com(jp)クラスの長さが基本単位と考えている。

最近社名変更した「メルコ」ブランドで有名なメーカーバッファローのドメインは、melco.co.jpが他に取られていたため、

www.melco inc.co.jp
-1- -2- -3- -4- -5-

となり、5チャンクとなっている。incがチャンク数に+1している。若干覚えにくい。

文字数が長さとは比例しないなとおもったのは、この記事で取材した、お台場の温泉の二つのURLの例がある。

大江戸温泉物語
http://www.ooedoonsen.jp/ (PCサイト)
http://oom.jp/ (携帯サイト)

というふたつを見たとき、PCサイトのURLは3チャンクといえるから覚えやすいが、携帯サイトは携帯では入力しやすいが意味が分かりにくくチャンクをまとめにくい。「oom」だけで3チャンクを使うので記憶しにくいと感じた。(これが大江戸温泉物語の頭文字だと分かったら記憶しやすくなったが、当初分からなかったのだ)。

プロトコル名のhttp://やディレクトリ階層も加えるとなるとさらにチャンク数は増えるわけだが、問題は文字数ではなく、チャンクの数が問題であることがわかる。標準が3チャンクであり、多くの人はその数字を期待する。

そこで

告知したいドメイン(URL)のチャンク数のマジックナンバーは3+1程度

と言えるのではないか、と私は結論している。これを超えると急に記憶が難しくなってくる。このルールはWebマーケティングのプロセスで適用できるはずだ。

例えば私のBlogのURLは不合格だ。広告に出すとして、

「www.ringolab.com」ならよいが「www.ringolab.com/note/daiya/」はアウト。

大手企業のWebのプロモーションキャンペーンではユーザにURLを認知させ記憶にとどめさせることに巨額の予算が投じられている。その割に、ドメイン名はいいかげんで非科学的な思いつきで設定されてしまうことが多い。「覚えやすさ」をもっと科学してもよいはずだ。

一度機会があればこのURLの認知については、実験で検証してみたいとおもっている。みなさんの意見もうかがいたい。

最後に余談だが、世界一長い(ハイフンなし)ドメインは、58文字のこれである。

・58文字の世界一長いドメイン
http://llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwllllantysiliogogogoch.com/

これはウェールズ語で英語にすると「The church of St. Mary in the hollow of white hazel trees near the rapid whirlpool by St. Tysilio's of the red cave」という意味らしい。チャンク数にすると13程度になるだろうか。一見、覚えるのは無理と感じるが、9の上限値を超えているものの、これでも記号化してチャンク数を減らせば、普通の人でもがんばって、覚えられないこともない、ということになるだろうか。

覚えてみると面白いかもしれない。

「世界一長いドメインってこれだぜ」と言いながら58文字を鮮やかにタイプして見せたら、横で口をあんぐりとさせる友人の顔が目に浮かびそうでは?


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Posted by daiya at 2003年10月21日 04:51 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
Daiya Hashimoto. Get yours at bighugelabs.com/flickr
Comments

3チャンク、面白いですね。

そういえばgoogleのSEM、ページの右上に
出てくる小さい四角の広告。

あれは4行。一行17文字の制約がある中、
最終行はURLを入れる欄です。

どんなURLも17の中に収めなければならないのです。
無論、HTMLで仕掛けがあって、
そのURLをクリックすると、本当の、それこそ58
文字のURLへ飛んで行くことになります。

つまり、広告主は、SEMに参加するとき、
どうやって、自分のURLの縮小版を作ろうかと
悩む仕掛けになっています。

そのとき、3チャンクの法則を思い出せば
良いのですね。

ひょっとして、単にスペースの都合だけでなく
googleSEMの企画者が、この
3チャンクの法則を知っていたのかな、とも
思いました。

Posted by: sansara at 2003年10月21日 12:48

橋本です。sansaraさん、いつもコメントありがとうございます。コメントが更新の原動力です。

なるほど、そういう使い道もあるんですねえ!Amazonとか商品URLが長すぎですよね。検索エンジンも、検索結果が長すぎると思うんです。

・「短縮URL」で検索(この結果自体も面白かった)
http://www.google.co.jp/search?hl=ja&ie=UTF-8&oe=UTF-8&q=%E7%9F%AD%E7%B8%AEURL&lr=

こんな風に長いですが、

「短縮URL.goole.co.jp」とか「google.co.jp/短縮URL」とかのほうがいいですね。すいませんちょっとご意見から脱線しました。

それと、マジックナンバー7±2だから、電話番号や郵便番号はその範囲に収まるように考えられているという説もあるみたいで記事に含めたいと思いましたが、原典が分かりませんでした。

Posted by: daiya at 2003年10月22日 03:50

http://3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592.jp/
↑"longest single word (without hyphens) .com domain"ではないので反則かもしれませんが、こちらのドメインはもっと長いです!

Posted by: shima at 2003年10月22日 03:59

shimaさん、こんにちは。

げげげーーーー

それは知りませんでしたよ。。。
私が紹介した58文字はギネスブックが出典ですがギネスブックも信用ならんですねえ。

いやあ、これは一本取られた感じ。

今度はドメイン名の長さ制限ってあるのかどうか気になってしまいました。255文字とかあるのかな。例えばドメイン名が50メガバイトあったらネームサーバ倒れちゃいますよね。なんかあるんでしょうね制限。

Posted by: daiya at 2003年10月22日 04:14

■漢字ドメインの可能性

3チャンクのことを考えると、漢字って便利だ、
3チャンクに収めやすい、とぃうことに
気づきますね。

どこかで漢字ドメインサービスってやってくれないんでしょうか。
裏側では、しょうがない半角英数文字なんだけど
見た目は漢字が使える。そういうサービス。

意外と、エキゾチックで海外でも受けそうに
思います。海外では「japan」の時代が
文化に関しては到来しているんですよね。

しかし、と。
3チャンクは字数の事なのか。リズムなのか。
リズムだと、漢字でも駄目な場合もあるし、
読めないといけないから、
海外ではやはりアウト、なのかな。

橋本さん、どう思われます。

Posted by: sansara at 2003年10月22日 10:11

http://www.ietf.org/rfc/rfc1738.txt?number=1738
↑RFCの1738番、Uniform Resource Locators (URL). T. Berners-Lee, L. Masinter, M. によると、長さに関しては定義されていませんでした。

http://www.google.co.jp/search?q=URL+%E9%95%B7%E3%81%95&hl=ja&ie=UTF-8&oe=UTF-8
しかし↑の結果を見てみると、URLの長さは主にソフトウェア的制約で決まり、最低ラインに合わせるとすれば255文字までみたいです。ただあまりに長いURLを許容すると、exploit codeを埋め込めるというセキュリティ上の問題もあるみたいですね…。

ご参考までに!

Posted by: shima at 2003年10月22日 19:09

>毎日更新ですが多忙のため本日は更新が遅れます
毎日、これだけ濃い記事を書くのはとてもエネルギーを使うことだと思いますが、健康にお気をつけてがんばってください!

Posted by: shima at 2003年10月22日 21:00

■sansaraさん、こんにちは。

>どこかで漢字ドメインサービスってやってくれないんでしょうか

日本語ドメインは既にあります(ご存知でしたらすみません)よね??そういうことでもなくでしょうか。

・日本語ドメイン(今はMSIEでは専用プラグイン必要)
http://jprs.jp/info/notice/idn.html

MSIEの対応待ちという状況のようです。来年にはブレイクするのではないかと見ています。ということはWebドメインマーケティングの今後の回で予定しているネタなのでここでは明かせません(危ない危ない。笑)。

また、やり方は違いますが、ブラウザのURL欄にキーワードや会社名を入れるとその情報に飛ぶ、

・JWORD
http://www.jword.jp/

は便利で実は結構使っています。

>3チャンクは字数の事なのか。リズムなのか。

チャンクは記憶できるかたまりとしての最低単位をあらわす言葉で、チャンクを短期記憶へ定着させる刺激には音やストーリーやカタチやその他いろいろありそうです。

■shimaさん

データありがとうございます。勉強になりました。事実上の制限らしき255文字のドメインって誰か持っていないのかな。いなかったら私が取得して世界記録保持者になろうかな(笑)。

Posted by: daiya at 2003年10月23日 10:53

 短期記憶のチャンクを、ストーリー記憶優先な長期記憶の話でも採用するのはミスリードにならないでしょうか。というのが気になりました。

 あとドメイン名については「呼びやすく独自の単語」のほうがブランドとしては効果的だと感じます。既存用語の組み合わせは、初期には分かりやすく理解してもらいやすいですが、そのうちに埋もれますから。うちの"TRPG.NET"なんかは、そのものズバリですが、逆に即物的過ぎてブランドとしては意識してもらえないことが結構あります。GoogleやYahoo!のように「他の使われかたのしないひとまとまりの造語」は、成功するなら識別性も高く、また後に展開もしやすくて便利ですよね。
 むろん、現在のようにドメインコストが低い以上、わかりやすい組み合わせのドメイン名をサービス内容単位で量産してしまうのも、うまい手だとは思いますが。

Posted by: sfこと古谷俊一(電網工房・匠) at 2003年10月24日 10:23

古谷 さん

議論は二つあって、人間の記憶というこでは、
認知心理学の成果としてPCに実装されている
RAMとHDの違いがあり、それに対応させて
考えればよいのではないかと思います。

RAMに記憶されるか、という観点の議論が
daiyaさんの議論。
古谷さんの議論は、RAMからHDへ導くという
視点も重要というご指摘。言ってみれば、
「ブランド」構築の議論だと思います。

ブランド構築には、URLの作りこみだけでなく、
画面のつくり、商品、サービスの内容等の相乗効果
が必要。

3チャンクだけでは収まらない部分があるかなと
思いました。

またご意見お聞かせください。

Posted by: sansara at 2003年10月24日 13:15

古谷さん、Sansaraさん

古谷さん、こんにちは(お久しぶりです!)。おっしゃるとおり、短期記憶と長期記憶を混同気味だったかもしれません。この文の趣旨がチャンクや記憶の仕組みの科学的究明ではなく、実際的にドメイン名をビジネスでどう活用していくかのマーケターに対する問題提起、話題提供にあるので、あまり厳密に区分はしませんでした。が、科学的究明についても非常に興味があるのでもう少し勉強して次のエントリを書いて見たいと思います。

造語のドメインはおっしゃるとおりのように思います。ネットレイティングスのランキングをみても上位にそのパターンが半数近く入っているようです。

お二人の意見でさらにいくつか書いて見たいことの刺激を受けました。今後もよろしくお願いいたします。

Posted by: daiya at 2003年10月25日 23:07