孤高のメス
DVDで『孤高のメス』(2010)を観た。久々に大感動した。当時劇場に行かなかったのを後悔。
「やっぱりこの俳優(女優)はうまいなあ」と思わせる程度では凡庸なのだ。登場人物が俳優であることを忘れさせ、芝居であることを忘れさせるくらいのリアリティを作り出す映画こそ一流だと思う。そういう意味でこの映画は一流だと思う。生真面目な看護婦役の夏川結衣による迫真の演技にすっかりやられた。踊るとか相棒とか見ている場合じゃないぞ、と。次元が違うから。大傑作『八月の蝉』の成島出監督作品。
日本初の生体肝移植。法を超えて命を救うことに全身全霊をかけた医療現場のハードコアドラマなのだけれど、私が感動したのは大義名分の美しさではなくて、厚みをもって描かれた人間像。尊敬できる医師が赴任してきて、現実に疲れていた中年看護婦が生気を取り戻していく。医師にメスを渡すときの「ハイ」の一言が以前とまるで違うものになってしまう。「ハイ」一言で内面の成長を感じさせてしまう夏川結衣の演技力が凄い。
それから、私はこの映画は社会派作品というよりも本質は大人の恋愛物語なのだと思う。病院が舞台なので役者たちは化粧っ気がないし、筋立てにもラブストーリーに必要な要素がほとんど登場しないにも関わらず、人を好きになるということを純粋に描いた傑作だと思う。
この映画は大傑作だがひとつだけ難点がある。リアリティ追求のために、手術シーンも、開腹した内臓をアップで写すのだ。血液や内臓のビジュアルが苦手な人(私ですが...)は、鑑賞中にその手のシーンになると、画面の端っことか天井に目を向けながら横目でちらちら見ることになる。しかも手術内容は物語の筋とも関係があり見逃すことはできない因果なつくりになっている。
『孤高のメス』 予告編 - YouTube
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