狐筋の一族 武富健治実話作品集
『鈴木先生』でブレイクした武富健治氏が、漫画実話ナックルズやバンブーコミックスなどで描いた実話ベースの漫画作品を16本収録した作品集。第一章 怪談、第二章 都市伝説、第三章 秘境と因習、第四章 死と暴力。掲載誌は読み捨てられる安っぽい大衆誌であるから、作家にとって、これを自分の代表作にするという意気込みはなかったはずだが、だからこその表現の遊びのバリエーションが楽しいと思った。
狐憑き家系と差別を扱った表題作は、昭和まで残っていた因習が引き起こした悲劇を描く。女性を誘拐してレイプして強引に結婚する"おっとい嫁じょ"とか、九州の離島に残るカルト集団"クロ宗"の実態など、秘境と因習の章は特に、取材ベースで強く印象に残るものが多い。
『連続射殺魔死刑囚の最期』は『無知の涙』で知られる殺人犯 永山則夫の晩年を描いた作品。こういう事件が起きたのは、あの頃、俺が無知だったからだ、貧乏だったから無知だったんだ。貧困が原因で罪を犯すことになったという永山と文通を重ねるうちに、獄中結婚する決意をする一般女性がいたという実話。『無知の涙』を読んでみたくなった。
この作品集を読んで、実話系劇画誌というのは、かつての日活ピンク映画市場のような、作家を育てるという面で、一定の役割を果たしているのかもしれないなと思った。(漫画実話ナックルズは休刊してしまったそうだが...。)
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