白檀の刑
莫 言(モー・イエン)は2012年のノーベル文学賞を受賞した中国人作家。
清朝末期の山東省で、鉄道を敷設しにきた横柄なドイツ軍兵士に妻を凌辱されそうになった孫丙は、ドイツ人の技師を殺害してしまう。これに怒ったドイツ軍は町を攻撃して住民を大量虐殺する。伝統大衆芸能の演者だった孫丙は持ち前の演技力でシンパを集めて反乱軍を組織する。事態を重く見た袁世凱大統領は、孫丙をとらえさせ、見せしめのために最高の極刑に処することを高密県知事に命じる。
その知事と孫丙の娘が裏では愛人関係にあったり、かつて朝廷で伝説の処刑人として名をはせた孫丙の父親が息子の処刑を請け負ったりと、複雑な人間関係のドラマもあるのだが、何よりも印象的なのは残酷な処刑法の丁寧な解説の部分。
確かに中国史には残虐な刑がいくつもあるというのは有名だ。
たとえば腰斬刑は腰のところで受刑者を真っ二つにする刑だ。受刑者は切られてもすぐには死なないらしくて、数分から数十分の間、のたうちまわり、大変な苦しみを味わうことになる。凌遅刑は小刀で受刑者の身体を少しずつ削ぎ取っていく刑だ。肉を削ぐ回数が決まっていて、最後の一刀で絶命させるのが、執行者の技だった。この小説にも凌遅刑の執行場面がでてくる。描写が生々しくて気持ち悪くなってしまうほど。
だが凌遅刑では、そう長くは受刑者の命がもたない。みせしめ効果を期待した袁世凱は受刑者に5日間以上、生きたまま地獄の苦痛を味あわせることを要求した。5日持たずに受刑者が死んでしまえば、次は処刑人の命が危うい。天才処刑人が提案した、受刑者の阿鼻叫喚が延々と続く究極の「白檀の刑」とは?嗚呼惨い。
列強に蹂躙される中国。内部が、権力との癒着や官僚主義、権力闘争、迷信迷妄、不倫といった汚濁にまみれて腐りきっており、出口が見えない。架空の伝統演劇「猫腔」の絶唱に乗せて、民衆の絶望の叫びが響く。壮大なドラマだが、極刑描写、不倫ドラマ、抵抗運動、動乱の中国史、清朝末期の朝廷の様子など、読者をひきつける要素がちりばめられていて、長編だが短く感じた。
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