歌舞伎町
危険な世界を安全な領域から存分に味わえるのが魅力のカラー写真集。
韓国人フォトグラファーが歌舞伎町に毎晩通い続けて撮りためた16年間分のエッセンスを出版した。この人は歌舞伎町の修羅場で活躍する"戦場"カメラマンだ。
「てめぇ、客引きのくせに...」。酔って絡むサラリーマン男性。しつこさにぶちきれた客引きが男性を引き倒す。それをみた客引きの仲間がかけつけてきて、倒れた男性をさらに踏みつける。その様子をタバコを吸いながらニヤニヤと見物する野次馬たち。
ヤクザと黒人が自転車を投げつける大喧嘩の様子。ヤクザの飛び蹴りが鮮やかに決まるシーンもある。歌舞伎町ではよくあることなのかもしれないが、タクシーのボンネットの上を歩く酔客。逃げる犯罪者を全速で追いかける警察官。無銭飲食者を押さえつけボコボコにする警察官。通り魔に切りつけられて顔中血だらけの被害女性。ホストクラブのビルから飛び降り自殺した女性。花魁道中の如く街を練り歩く妖艶なキャバ嬢たちや、衣類をはだけて無防備に眠り込む女子学生。驚くべきことに、カメラマンはこんなシーンをわすか数メートルの至近距離から撮影している。
解説で書かれているが、決してヤクザにみかじめ料を払って撮影しているわけではない。撮影条件は一般人と同じだ。だから当然のように、怒った撮影対象から暴行されカメラを何度も壊されている。組の事務所に監禁される、盗撮扱いで警察に通報されるのも当たり前。警察ややくざとは一定の距離を置きながらも、顔なじみはつくっておき、いざというときの場をなんとか切り抜けていく。本人の解説から垣間見えてくる凄まじい撮影の実情も本書の魅力だ。
ただでさえ街でのスナップが危険な時代に、歌舞伎町で毎日撮るなんて、本物のクレイジーだ。
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