人間仮免中
感動したコミック。大傑作。
卯月妙子(うづき・たえこ)の自伝的近況報告的な漫画。
「1971年、岩手県生まれ。20歳で結婚。しかし程なく夫の会社が倒産し、借金返済のためにホステス、ストリップ嬢、AV女優として働く。排泄物や嘔吐物、ミミズを食べるなどの過激なAVに出演。カルト的人気を得る。その後夫は自殺。幼少の頃から悩まされていた統合失調症が悪化し、自傷行為、殺人欲求等の症状のため入退院を繰り返しながらも、女優として舞台などで活動を続ける。さらに自伝的漫画『実録企画モノ』『新家族計画』(いずれも太田出版)を出版し、漫画家としても活躍」
という過激なプロフィール(これ以外にもステージ上で首を切って自殺を図ったり、立派な彫り物を背負っていたり...)の女性漫画家が、居酒屋で趣味があった還暦過ぎじじいのボビーに交際を申し込む。3度結婚に失敗しているが、人格的にも経済的にも余裕のある大人の男ボビーは、そんな彼女のすべてを真正面から受け入れる。純愛。二人は真剣に結婚を考えるようになる。
春が来そうなムードだったのに、彼女の統合失調症が悪化して、事態は急変、言葉を失うような悲惨な地獄へ堕ちていく。どん底からボビーをはじめ周囲の暖かい支援を受けながら、回復へと向かう長い長い道のりを300ページ超の大作として描いた。
生き地獄のような絶望や、統合失調症の見せる強迫観念的な幻覚を、リアルに伝えているが、絵柄は明るくユーモラスなタッチで描く。軽いタッチで重い現実を描く。この境遇にして、この才能が発揮された。笑いながら涙が出てくる。
なんといっても大人の男ボビーの包容力がかっこいい。日常のダメな部分も描いてリアリティを出しつつも、彼女が危機の正念場になると、これ以上ないくらいの優しさと真面目さで恋人を守り続ける。たぶんこの作品は著者からボビーへのラブレターでもあるのじゃないかと思った。
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