日御子
今年ベストに選んじゃうかもしれない長編歴史小説。深く感動した。
お隣中国の歴史書『三国志』の中の「魏志倭人伝」に出てくるだけの邪馬台国と卑弥呼、志賀島で発見された「漢委奴国王印」と刻された由来不明の金印。2,3世紀の日本は史料が少なくて謎に包まれている。邪馬台国の場所だって九州か近畿かわからない。そのわずかにわかっている数か所の点から、こんなに厚みのある大河ドラマ、人間ドラマが立ち上がるなんて、帚木 蓬生、天才だ。
国王に仕え中国や韓国との外交を助ける使譯(通訳)一族の百年を超える物語。使譯は漢の言葉を厳しい勉学で身につけ諸外国の使節訪問を待つ。いざ国王に朝貢を命じられれば命を懸けて大陸に渡るのが使命。だが国内情勢(倭国大乱)や中国の王朝交代もあって、なかなか朝貢チャンスは訪れない。朝貢がかなえば一生の誇りとするが、中国の文書に那国のことを奴国と悪字で書かれたことを恥として一生気に病んだ者もいる。高い志を持っている。
使譯は外交官や政治家ではないから、志は高くてもままならない。政治や人間のしがらみのなかで生きている。自分なりの理想を曲げねばならないことも多々ある。使譯たちの生き様は狭い世間と組織の中で生きる日本人の姿を象徴している。
国のためを思い懸命に働く誇り高い一族には代々伝わる掟がある。「人を裏切らない」、「人を恨まず戦いを挑まない」、「良い習慣は才能を超える」、「骨休めは仕事と仕事の転換にある。」。代々の使譯たちは人生の岐路においてこれを指針として使う。やがてその職業人としての清々しく、凛々しい生き方が、君主たちにも影響を与え、国の未来を変えていく。
日本人はどう生きるべきか、古の日本人の生き方を通して、著者は現代の日本人に伝えたいらしい。中国と日本の海を越えて波乱万丈の物語もドラマチック。史実や伏線をたくさん織り込んだ緻密なプロットにも感嘆。長編歴史小説というと最近は「天地明察」「光圀伝」の冲方丁ばかり話題だが、帚木 蓬生ももっと売れていいはず。
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