怪物はささやく
ヤングアダルト向けの大傑作小説。大人が読んでもひきこまれる。
母親と暮らす13歳の少年コナーの前に、毎晩12時7分になると、近所の大きなイチイの木が巨大な怪物の姿で部屋に訪れる。怪物は少年にいう。「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つめの物語をわたしに話すのだ。おまえはかならず話す...そのためにこのわたしを呼んだのだから」と。
怪物が話す3つの幻想世界の物語はどれも一般的な物語としては落ち着きが悪いものばかり。予定調和に終わらない筋書。最後に正義や善が勝つとは限らないし、善人だと思っていた人が別の観点では悪人に思えたりする。怪物はいう。
「物語にかならず善玉がいるとはかぎらん。悪玉についても同じだ。たいがいの人間は、善と悪のあいだのどこかに位置しているものだ。
コナーは首を振った。「退屈な話だ。それにずるすぎる」
これは実話だ。真実というものはたいがい、ごまかしのように聞こえるものだ。」
この作品は中盤まで主題が見えない。奇怪な怪物や不思議な物語はいったい何を意味しているのか?が宙ぶらりんで置かれる。後半ではそれらの断片的なメッセージが重なり合って、少年の置かれた残酷な現実、受け入れがたい真実が明らかにされていく。
私は少年時代に『モモ』(ミヒャエル・エンデ)という児童文学の傑作を読んで、小説物語が好きになったのだが、この作品と小中学生の頃と出会っていたら、たぶんまた違ったきっかけとなって大きな影響を受けていただろう。特にこの結末にはぞくっときた。
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