中陰の花
色恋小説を通して説教臭くなく仏教を説くのが得意な男性版 瀬戸内寂聴とでもいうべき、作家で僧侶の玄侑 宗久氏の第125回芥川賞受賞作。といっても受賞は2001年のことであり、なんでこのタイミングで読んだかと言えば、Koboのブックストアの芥川賞直木賞受賞作カテゴリーにあったから。
タイトルの意味は「中陰(ちゅういん)、中有(ちゅうう)とは、仏教で人が死んでからの49日間を指す。死者があの世へ旅立つ期間。四十九日。死者が生と死・陰と陽の狭間に居るため中陰という。」(出典:wikipedia)ということ。
禅僧の夫(著者がモデル)と妻が、知人で予知能力を持つらしい老女うめさんの臨終にたちあう。俗人である妻の「人は死んだらどうなんの」という問いかけに対して、夫は考え込む。そして、仏教本来の教えでは死後の世界は本当はないのだが信じている人には便宜上あると答えているのだよとか、「ある」と「ない」の間に「あると同時にない」ようなものを仮定する量子力学の考え方を持ち出し、さながら禅問答のやり方で答える。
妻は流産した子供を思いながら折った何千本もの紙縒りで、中陰の花ともいうべき巨大なオブジェをお堂につくる。夫はそれを背景にして無心にお経を読む。その共同プロセスを通して二人は深い悲しみを乗り越える。現代における宗教の役割について、現代的な物語を使って読者に感心させる。うまい。
・現代語訳 般若心経
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/11/post-481.html
・祝福
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/02/post-703.html
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