独立国家のつくりかた
建築家には変な人が多い。著者は熊本に勝手に新政府を設立し、初代内閣総理大臣に就任した似非建築家だ。震災後に逃げろといわなかった政府に失望し、「プライベートパブリック」という概念を唱え、「新政府」を勝手に始めてしまった。所有権があいまいになっている土地を全国にみつけては領土としている。
とはいえ日本には、法律というものがある。内乱罪にならないように新政府活動は「芸術」と呼び、社会を変える行為としての芸術活動として、新政府をやる。トンデモのようでいながら、相当なしたたかさを持った人だ。現代の日本社会の楽しい歩き方を教えている人でもある。
お金がなくても楽しく暮らせる社会を目指す。たとえば0円特区構想。お金を稼がなくても楽しく生きていくために「態度経済」を実現せよと説く。それは「社会を変えよう、少しでもよくしようという態度を見せ続ける人間を、社会に飢え死にさせちゃまずいと考え、相互扶助を行い始める」という状態をいう。
「ただ人が歩き、話し、ハイタッチする。それで経済がつくられる。なぜなら、そこにはとても心地よい家や町や共同体があるからである。」。プロボノ的な労働や相互扶助の精神で、個人がお金も土地も所有しない幸福社会を夢想する。ただその世界はまったくの別天地に作るのではなく、現実の日本と同居しているのでもある。
現実世界の上に仮想的な新しいレイヤーを想像する力を持つことで、今の日本にいながらにして、新しい生き方の可能性を探っているようにみえる。この人は社会を転覆させるのではなく、私たちの意識、考え方を転覆させる、モダンな革命家なのである。現実的でありつつ夢想家でもあり、モノづくりに手も動かす思想家。いいなあ。
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