鍵のない夢を見る
辻村 深月の直木賞受賞作。
『仁志野町の泥棒』
『石蕗南地区の放火』
『美弥谷団地の逃亡者』
『芹葉大学の夢と殺人』
『君本家の誘拐』
泥棒、放火、逃亡、殺人、誘拐。収録5作品はすべて犯罪と関係がある。
小学校の友達のお母さんが泥棒だったら。ショッピングセンターでふと目を離したすきにベビーカーがなくなっていたら。出身研究室の教授が殺されて犯人に心当たりがあるとしたら。平凡な日常の中にあらわれる暗い闇の淵へと落ちていく5人の女性が主人公。
生まれつきの犯罪者ではなく、自身の性格の弱さや偶然から、普通の人間が犯罪者に変貌していく"魔がさす"瞬間の描写が見事。映像的な場面展開もうまい。現実に起きた事件の再現ドキュメンタリみたいに思える生々しさを感じる。
そういえばこの小説は、だらしない、頼りない、デリカシーのない男性ばかりが登場する。その描写にとてもリアリティがあるのだ。キレるにしてもブチ切れて大乱闘するのではなく、鬱屈した男が陰湿にキレるみたいな。
ところでこれはKobo電子書籍版ではじめて読破した小説だった。短編集は電子版と相性がよい。
ちなみにAmazonではこのブログ執筆時点では売り切れで入荷待ちとなっている。直木賞受賞発表の直後だからだ。電子版は人気作品でも売り切れないのがポイントだと思う。短編が対象の芥川賞は受賞時に単行本未出版ということも結構多いが、電子版で発表と同時にでればもっと読者が増えるかもしれない。
両賞に限らず、受賞したのに読めない文学賞をなくす電子出版効果に期待。
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