サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代
「本人も与り知らない無意識の認知メカニズムの存在が、ヒトの本性を規定するとともに現代社会に特有の諸現象にも深くかげを落としている」ということを名著『サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ』の認知心理学者が語った続編的な内容。
無意識と情動。心と身体のあいだにあるはたらきが、顕在意識や行動に大きく影響を及ぼしているとする研究成果が多く提示される。悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいというジェームズ・ランゲ説。生存に必要なものに注意が向かう無意識の定位反応によって対象を注視していると、自覚的にも好きになってしまう現象。意識にのぼらない知覚というものがあって、思考や判断の下部構造となっている。予感や予兆は、本人がうすうす知っているがまだ意味を自覚できない時期の知覚だなんていう話もある。
現代社会のコマーシャルには、こうした人間の潜在認知過程をコントロールする技術が採用されている。多くは
1 狭める
2 誘発する
3 気づきにくくする
という自覚以前の操作を企むものだ。巧妙な広告宣伝は、消費者が自らの「自由意思」で企業側の望む選択をしてくれることを目的として設計されている。○○のことを覚えてくださいというのではなく、○○のことを忘れてくださいという指示をすると被験者は、より○○を強く記憶してしまう、みたいに。
リアリティの脳内人工増殖という著者の考え方が面白かった。日々進化していく私たちの情報環境とともに私たちの感じるリアルさや感覚もまた進化しているという。
「脳内を活性化するものこそもっともリアル」
「物理的な現実味とは関わりなく」
「実際の社会的きずなとも関係なく、社会脳を刺激さえすれば」
高精細の映像に本物と同じかそれ以上の臨場感を感じることはあるし、"ソーシャル"の情報に一喜一憂したりもする。逆にリアリティを感じられない現実というのもある。"本物の感動"というときの本物が増えるというのだ。
「情動系、社会系をはじめ感覚系、記憶系、運動系など、様々な脳内システムを一気に活性化するのが感動の新定義だ、と、こう言ってみたら。そういう人工的なのは本当の感動ではない。太古以来の自然に接したり、人の素朴な情に接したりしたときの感動こそ本物だ。たちまちそういう反論が聞こえてきそうです。 だが、残念なことに、この反論はまさに議論の眼目を見落としています。なに、そういう太古のヒトの脳だって環境の刺激に対して最適に鋭敏化していたはずです。現代社会の環境への適応も、その同じ脳の生物学的機能の延長に過ぎません。」
潜在認知レベルから脳を刺激して操作することができるようになれば、本物を超えた超本物を知覚する超感動なんていう体験もでてくるのかもしれないなと妄想。
・サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/01/post-52.html
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