悪魔とプリン嬢
『アルケミスト』のパウロ コエーリョによるダークサイドの大人のおとぎ話的な作品。『ピエドラ川のほとりで私は泣いた』『ベロニカは死ぬことにした』とあわせて三部作になっている。人間は1週間でどれだけ劇的に変わりうるか、を共通テーマにしている。
これといった産業もなく、過疎化が進んでいく田舎の小さな町ヴィスコスに、異邦人の旅人がやってくる。町の入口を見張るのが趣味の老女には、旅人が悪魔にと取りつかれているのがわかった。これからなにか禍々しいことが起こるのだ、と。
旅人は町の住人全員(281人しかいない)が一生遊んで暮らせる位の価値を持つ金の地金を持っている。そしてそれを村の近くの山に埋めて隠した後、村に住む若い女性プリンに恐るべき提案を告げる。それはもしも1週間以内に村人の誰かが一人でも殺されたら、地金を全部、村人に差し上げようというものだった。
旅人は「条件さえ整えば、地球上のすべての人間がよろこんで悪をなす」ということを立証しようと企んでいる。誰かが死ねば残った全員が大金持ちになれる。それは黙っていれば外の誰にもわからない。そんな悪魔的な環境がこの町につくられたのだ。
顔が見えるつきあいをしてきた住人たちは、最初は旅人の提案にとりあわないが、しだいに旅人の言っていることが本当だとわかると不穏な雰囲気が濃くなっていく。ラストは大変な緊張感に包まれる。そこから読者はどういう教訓を得られるか、がこの本の読みどころだ。
オチは決して道徳の教科書的な、単純な教訓で終わらない。性善説or性悪説にとどまらない。 『ヴィスコスという辺境の町で起きることは、そのまま世界中のどこでも起きることだ』という言葉が出てくるが人間の業は深くて実に複雑だ。
・アルケミスト 夢を旅した少年
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-857.html
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