人種とスポーツ - 黒人は本当に「速く」「強い」のか
「1984年五輪ロサンゼルス大会から2008年北京大会まで、直近の過去七大会の競争種目男子100メートルの決勝で、スタートラインに立った56人はすべて黒人である。」
陸上競技、バスケットボール、フットボールというスポーツでは黒人の活躍が顕著である。濃い褐色の肌は強靭な肉体をイメージさせる。メディアは強い動物のイメージにたとえたりもした。
黒人は先天的に身体能力が高い?
奴隷制の試練を耐え抜いた強靭な肉体の男女から生まれているから?
黒人身体能力ステレオタイプという偏見は、世界中にあるが特に日本人に強く持たれているらしい。現実には黒人が他の人種と比較して生得的な身体能力が優れているという証拠はないし、そもそも「黒人」の定義が曖昧であり、肌が黒いからといっても遺伝学的には大きく異なる集団が混在しているそうだ。
黒人自身も自分たちの身体能力が生まれつき高いと勘違いしていることがあるのは、この問題の難しさを示している。それは音楽の能力と同じで、個の素質と環境によって伸ばされるものに過ぎないということを、多くの人が誤解している。
著者はさまざまなスポーツの歴史を丁寧にみていく。黒人の大活躍する陸上競技、バスケットボール、フットボールといった競技がある一方で、黒人が活躍しない種目もある。米国のベースボールやボクシングのように、一時は黒人選手が上位を占めたが現在はそうではなくなった種目も結構ある。
奴隷制の時代から現代まで、黒人のスポーツへの進出を時系列で追いかけることで、歴史的な経緯やいくつもの条件が重なって、黒人優位のスポーツができあがっていった様子がみえてくる。
この内容、そうだったのか!という人もいれば、やっぱりそうか!、という人もいるだろう。どちらにせよ、いまだに広く持たれている偏見と差別に真正面から一石を投じる内容。面白い。
オリンピック前に呼んでおきたい一冊。教科書でちゃんと教えてもよいのかも。
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