薩摩義士伝
『血だるま剣法/おのれらに告ぐ』の平田弘史が島津藩の宝暦治水を描いた劇画。幕府に虐げられた島津藩士たちの、上士にいじめぬかれた下士たちの、理不尽に耐えがたきを耐える姿を描いた全5巻。トラウマになりそうな激烈作。
関ヶ原で西軍についた薩摩藩に対して、徳川幕府は常に疑いの目を持ち、その力をそぐために、無理難題をふっかけた。特に有名なのが宝暦治水工事。幕府は歴史的に洪水に悩まされてきた木曽三川の治水工事をするように島津に命じた。工事をするには藩政が立ち行かなくなる莫大な費用の一切を島津藩がもたねばならない。島津藩をつぶすための策略ともとれる理不尽な幕命だったが、家老の平田靱負は「民に尽くすもまた武士の本分」といって藩をまとめ、工事の総奉行として藩士800名以上を連れて遠い任地に赴いた。
総予算40万両、1年半にわたる難工事だが、専門の職人を使うことを幕府が許さない。藩士たちは人夫となって自ら工事にあたった。粗さがしやわいろを求めてくる幕府の役人たちのいやらしい監督下のもと、誇り高い島津藩士たちはひたすら忍耐を重ねて、治水工事を続けるが、やがて堪忍袋の緒が切れるものもあらわれて...。
史実的には、50人以上の藩士が、あまりの理不尽な要求をする幕府や藩上層部に対して抗議の切腹をし、総奉行平田靱負も、幕府高官による屈辱的な工事検収が完了した後で、予算超過の責任を取って自害した。幕府から派遣されてきた監督役の中にも島津藩に同情して、抗議の切腹をしたものもいたというほど、壮絶な工事現場であったそうだ。
宝暦治水と平田靱負の話は、同じ出版社からでているみなもと太郎の漫画『風雲児たち』で知って興味を持っていた。『風雲児たち』の少年漫画風の絵柄ではなくて、鬼気迫る平田弘史の劇画になったことで、藩士たちの血を吐くような悲壮感、悲惨感は数百パーセント増しでびしびし伝わってくる。血を見ない回はない。特に上士にいびられる下士たちの救いのなさはカムイ伝に通じるものがある。
武士道を超えた薩摩道の極みを感じるトラウマ漫画である。
幕末の風雲児を語るために関ヶ原からじっくり語るという、相当無謀な取り組みを成功させた長編時代劇漫画。長いけれどもおすすめ。島津藩がなぜ徳川幕府を倒すに至ったかの本質を知ることができる。この漫画は読んで本当に勉強になった。
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